「異質さで勝つ」クレディセゾンの新人事制度。社員との絆も永久不滅!

今回は、2017年8月に発表された「全従業員を正社員化」が大きく話題となった株式会社クレディセゾンの、戦略人事部長・松本憲太郎さんを迎え、その「新人事制度」の背景にある戦略と、「出戻り社員を増やすためのアルムナイ・リレーションシップ」でも取り上げた、再雇用制度「リワーク・エントリー制度」について話を伺いました。

PROFILE

株式会社クレディセゾン 戦略人事部長
松本 憲太郎 

1970年生まれ。関西学院大学法学部卒業、1993年にクレディセゾン入社。主力のクレジットカード事業において、支店での営業職、支店統括部門スタッフ職、商品企画部門スタッフ職等に従事。2010年、営業企画部長。2014年、戦略人事部長に就任し人事制度改革を主導、現在に至る。

 「異質さ」で勝ち続けるための新人事制度

——2017年8月14日に発表・9月16日から運用開始された、クレディセゾンの新しい人事制度は、人事界隈を越えて、マスメディアでも特集されるなど、非常に話題になっています。改めてこの制度刷新の背景と目的について教えてください。

今回の「全社員共通人事制度」の内容をまとめると、従来あった4つの社員区分を撤廃して「正社員」に一本化、処遇や福利厚生を統一するとともに、「職能」ではなく「役割」に応じた評価で「同一労働同一処遇」を実現するというものです。

こうした内容が、ちょうど昨今の「働き方改革」の潮流とシンクロしたこともあって、「正社員登用」「処遇改善(同一労働同一賃金)」の文脈からクローズアップしていただいておりますが、それらはあくまでも新制度における「手段」であって、「目的」は「働き方改革」とは別にあるのです。

雇用形態の現新比較(クレディセゾン提供資料をもとに作成)
役割等級制度の設計(クレディセゾン提供資料をもとに作成)

——たとえば「離職防止」や「労働環境改善」をはじめとした、いわゆる「人事課題」解決のためのものではないということですね。プレスリリースや資料の冒頭にも“経営理念である「サービス先端企業」であり続けるため、ベンチャースピリットを持って、新たな価値提供へ積極果敢に「挑戦する企業文化」を創ることが目的です。”と掲げられていますね。

はい。この目的を掲げるに至った背景について説明させていただきたいのですが、話は私たちクレディセゾンのルーツに遡ります。

クレディセゾンは、故・堤清二氏の「感性の経営」で一時代を築いたセゾングループの中核企業で、グループがなくなった今日もその DNA を継承し続けています。

その DNA とは「異質さ」。セゾングループでは、世の中にはないユニークな業態の提案を何にもまして重視するカルチャーがありました。「異質であること」に価値が生まれ、優位性となるからです。逆に、同質化してしまっては存在価値がないと考えていたのです。

——たしかに当時のセゾングループの顔ぶれ、パルコ、無印良品、ロフト、リブロ……など、異質ではあるものの、若者たちの心をつかんだ「感性」の良さが際立っています。

そんな中、クレディセゾンは、こうした「異質」な業態を、主にセゾンカードを軸に、年会費無料カードや提携カードをはじめとした、これまた「異質」な売上拡大施策やサービスを生み出し、裏方として支えてきた歴史があるのです。企業の分類上は、「金融業」ですが、金融業界では「異質」の存在で、私たち自身もあまり「金融業」だという自覚がないのもそれゆえかもしれません。

——古くは、他社に先駆け有効期限をなくした「永久不滅ポイント」、最近でも、社員によるアイドルグループ「東池袋52」結成など、金融系とは思えない「異質さ」が光っていますよね。

はい。ただ、その「金融系とは思えない」という「但し書き」がついてしまうところこそ、今回の新制度誕生の背景の一つなのです。

どんなビジネスモデルも賞味期限は30年とはよく言ったもので、私たちの主力であるクレジットカードビジネスが安泰とは言えなくなってきています。

ご存知の通り、法律による利息制限、複雑なシステム開発投資負担の増加、さらには、電子マネーやQRコード決済など、クレジットカードを代替する商品・サービスが次々と台頭してきているのが現状。

そこで、私たちも特定の商品に依存しない事業モデルへの転換を計り、間接部門の合理化や営業支援といったトータルソリューション型への移行や、新しいテクノロジーを用いたサービスの提供など、「サービス先端企業」たる試行錯誤をしています。

そのためには自前主義にこだわらず、外部リソースを組み合わせていくことが重要ですから、異業種やベンチャー企業とも積極的に連携しているわけです。そこで、ハッと気付いたんですね。企業としての歴史もそれなりになってきている中で、「金融業界では速くて異質だけど、市場全体で見てみれば、そうでもなくなってきているのではないか」と。

——業界はもちろん、国境すらボーダーレス化する中で、自分たちのアイデンティティが揺らぎつつある、そんな危機感を抱いたことが、冒頭の“経営理念である「サービス先端企業」であり続けるため、ベンチャースピリットを持って、新たな価値提供へ積極果敢に「挑戦する企業文化」を創ることが目的です。”につながっていくのですね。

そうです。私たちが名実ともに最先端の「異質さ」を取り戻し、競争に勝ち続けることができるのか、そのためには人事、つまり「人と組織」によって何ができるのか、というのが出発点なんです。挑戦する企業風土・企業の成長のための人事制度であって、いわゆる人事課題はそれに付随するものとして副次的に解決していこうという優先順位だと言えます。

——以前アルムナビでインタビューした、八木洋介さんも「経営のゴール、その企業にとっての『勝ち』が定義されていなければ、人事戦略は作れない」とおっしゃっていましたが、明確な経営戦略・ビジョンにもとづき、落とし込んだ新制度だったのですね。

はい、ですから、よく社外から「こんな大がかりな改革、よくできたね」なんて驚かれるのですが、経営陣と目的・問題意識を明確に共有できていたので、「経営課題の解決につながる内容になっているか」という一点のみの議論に集中できたということです。

具体的なタイムラインとしては、2016年の9月から検討を始め、年内で課題の整理と基本設計を進め、その後詳細に落とし込み、2017年3月の役員会で承認を得るというスピーディーなものです。

——“「挑戦する企業文化」を創る”と謳っている以上、勇気を持って断行したりできなければ自己矛盾ですものね。

一番大きな変化となる社員区分の撤廃・一本化も、当初意見が割れましたが、すぐに関係者全員が納得するに至りました。

実はこれに先がけて、2016年に総合職のみ対象で、人事制度のマイナーチェンジを実施していたのですが、「社員の6割を占めるメイト職までメスを入れなければ、本当に変わることはできない」という想いが、「変えたばかりなのにまた変えるの?」というためらいを振り切ったのでしょう。

新しいビジネスのためにハイパフォーマーの成長・抜擢を促す

——新しい人事制度によって、「ベンチャースピリット」や「新たな価値提供へ積極果敢に『挑戦する企業文化』」へつながる、その根拠・ロジックについて詳しく教えてください。

第一に、事業のポートフォリオが変われば、それに伴い、組織の意義も、社員の役割も変わるものです。硬直化したものではなく、その変化に柔軟に対応できる人事制度が必要であるというのが一つ。

たとえば、自前主義から脱すれば脱するほど、自社のリソースの知見だけではなく、広い視野、グランドデザイン、財務の視点とは違う目利き、コーディネート能力が求められます。それは、従来の職能や業務成熟度とはガラッと異なるものでしょう。

また、新しいサービスはもちろん、業務プロセスの自動化のためにもテクノロジーの活用は欠かせませんし、それを推進する、これまでの人材にはいないスペシャリストやエキスパートといった役割も増えていくでしょう。これは従来の制度では処遇変更や対応も困難だと考えています。

第二に、他とは違う「異質」なことを、リスクを恐れず勇気を持って実行できる人材や、新しいフィールドで活躍できる人を、制限や不要なプロセスなく抜擢できるしくみです。

従来の教育制度は総合職が中心でしたが、それを総合職じゃないというだけで、必要としている人材や可能性のある人材が受けられないなどといった制約は、本末転倒ですよね。

社長の林野は、常に地方にまで目を光らせ、活躍している人材の情報を仕入れて人事に提案をしてくれるのですが、ある時、私が「彼女はメイト社員なので、社員登用試験を受けないと、この仕事は任せられません」と答えた際、「何を言っているんだ。優秀な人材に雇用形態なんて関係ないだろう。変だと思わないのか?」と言われて、ハッとしたことがあります。

——考えてみればあたりまえのことなのに、松本さんでさえ、改めて「気づき」があったということは、従来の総合職以外の方々は、無意識に「見えないキャリアの壁」を感じて、パフォーマンスにブレーキをかけていた可能性も大いにありますね。

はい。今回、雇用期間を無期で統一するにあたり、改めて考えてみたのですが、有期雇用はローパフォーマーとなった場合のリスク対策という側面もありますよね。でもそれは同時にハイパフォーマー活用の可能性を損ねていることでもあるんです。これは企業のリスク管理の話であって、考えなしに「普通、有期だからそうしておこう」というものではありません。そのハイとローどちらに合わせるかというトレードオフにおいて、私たちはハイパフォーマーに合わせて、その成長を促す選択をしたというわけです。

——さて、実際のところ、運用開始したばかりではありますが、手応えはいかがでしょうか?

これだけの大がかりな変化ですから、正直、社員は期待半分、不安半分というところじゃないでしょうか。今は、来年の本稼働に向けて、人事と各マネジャーで対話を進め、この新制度に込めた想いを共有しているところです。

業務管理ではない組織管理の観点で、どう次代のタレントを発掘していくのか、どう人材を活かしていくのか、ともに将来像・キャリアをどう描いていくのか……など、社員たちと向き合いながら模索していきたいですね。

人事制度って「刷新して終わり」のものではなく、弾力的に変え続けるものだと思うのです。そういう意味でも、私たちの挑戦は「ここからだぞ」という段階だと思っています。

さらに今回の全員正社員化に際して、評価システムも「職能・職務等級」から「役割等級」に基づく「行動評価」へと大きく変更しました。これは、「現在担う役割と期待される役割に応じて処遇が決まる」という制度です。勤続年数や入社経路は問わず、持てる能力や発揮したパフォーマンスに対して適切な処遇が行えることになります。

高い専門性や知見を持ったスペシャリストを高く処遇することができるようになったので、これまで以上に自分の能力開発に力が入るでしょう。勤続年数や入社経路は問わないわけですから、たとえ一度当社を辞めて視野を広げ、スキルを磨いた方でも大歓迎と言えます。

リワーク・エントリー制度の戦略的必然性

——今「再雇用」のお話が出ましたが、クレディセゾンには再雇用制度「リワーク・エントリー制度」がありますね。アルムナビでは以前「出戻り社員を増やすためのアルムナイ・リレーションシップ」という記事にて、企業の「出戻り制度(再雇用制度)」をリストアップしました。

——中でも貴社の「リワーク・エントリー制度」は、アルムナイが「いつか戻りたい」と思い、実際に「戻ろう」と行動に移し、さらには、職場が「自然とリワークを受け入れる」という三拍子揃ったものという点でも重要な成功事例だととらえています。この制定の背景や、制定や定着までの苦労などあれば教えてください。

リワーク・エントリー制度
結婚や出産、育児、介護や能力開発、留学、転職といった理由で、やむを得ず退職した社員が、一定の条件のもと、退職時と同じ労働条件で再就職できる制度です。在職中に蓄積した知識や経験を有効活用するという点で、本人と企業双方にメリットのある仕組みとなっています。

http://www.creditsaison.jp/saiyo/ss/career/index.html

これも新制度同様、私たちのルーツに遡ることで見えてくるものがあるかもしれません。

クレディセゾンは、女性社員が約8割を占めるという点でも「異質」な企業です。それは、優秀な人材を求めるため、「あえて他社が狙わない女性を獲得する」という戦略を、1980年代前半から採用していたことに起因します。

女性の活躍によって企業の成長が実現できたわけですから、女性が働き続けられる環境構築がイコール、サービスの質に直結するまでになったのです。ライフイベントで女性が会社を去ってしまうと、存続に関わるわけです。だからこそ、制度を用意しつつ、「自己都合転居でも運用で職場を探す」、そんなカルチャーが育ったといえます。

——男女雇用機会均等法(1985年制定・86年4月施行)が制定されるかしないか、そんな時代の話ですよね。

はい。今のリワーク・エントリー制度の前身に当たるしくみは、89年に誕生しました。当時は社会的に専業主婦があたりまえだった時代です。結婚・出産・育児といったライフイベントにくわえ、配偶者の転勤や海外赴任があれば、女性社員は退職するのが一般的。彼女たちになんとか戻ってきてもらうために必死で生み出した制度だったんです。

こうした歴史的経緯から言っても、リワークの方がいるのがあたりまえの光景になっていて、たとえリワークしても、「久しぶり。リワークなんだね。」くらいの軽さで済んでしまうわけです。退職時にも上司が「リワーク・エントリーしておいてね」と声がけをしていますし、実際ほぼすべての退職者がエントリーしています。

当初は3年間はリワークOKだったのが、配偶者の海外赴任の増加や長期化にともない、2015年に10年間にまで拡張しています。これも「10年経ったら別人だ」という危惧もあるにはありましたが、有期無期の話と同様、ハイパフォーマーの囲い込みを取るか、ローパフォーマーのリスクを取るかの話です。

リワーク・エントリー制度利用者のロイヤリティ/パフォーマンス

——実際の制度利用率はいかがでしょうか?

制定当時と違い、産休・育休からの復帰率はほぼ100%なので、自己都合退社からの再雇用のみになりますが、年間10人程度の利用実績があります。ここまで説明したようにもともとは女性のために制定したものでしたが、実際は男性の利用も多数ありました。

先日は転職した男性社員が、「クレディセゾンの良さに気づいた」と半年で帰ってきたケースもあります。それは私もさすがにあっけにとられましたが(笑)。うちほど事業領域が広い会社は珍しいので、仕事の多彩さが、恋しくなるようです。実際に、この制度の利用者ほど当社への愛着(ロイヤリティ)が強いように感じます。

——新制度の狙いでもある、「挑戦する企業文化」にフィットした「異質」な人材なら、きっとそう思うんでしょうね。

いずれにしても社員がチャレンジしたかったことに挑み視野を広げて、戻ってきてくれるのは、新しい価値を生み出すコラボレーションの観点からもプラスになると思っています。

定量的なものではなく感覚的なものになってしまいますが、リワーク社員は総じて離職前に比べ、パフォーマンスが上がっている実感はあります。仕事の受容度の向上はもちろん、違う環境・違うカルチャーからアイディアやヒントを得て、それを提案につなげたり、実践したりという話はよく耳にします。

——アルムナイ活用のメリットの一つとして考えられる、オープンイノベーションの担い手としての役割の萌芽がすでに感じられているのですね。

さまざまな経歴の「異質」が集まる集団だからこその問題解決というのは、たしかにあると思っています。

退職時にリワーク・エントリー制度に申し込んでくれたアルムナイたちとのリレーション構築の強化は、よりいっそう考える必要があるかもしれません。昔から「異質」な人材が輝くことで成長し続けている組織なのですから。

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編集後記

クレディセゾンの長い歴史を通しての、「一貫した人材観」の強さを感じるインタビューになりました。

特に、松本さんがアルムナイ再雇用のメリットとして、「実際に、この制度の利用者ほど当社への愛着(ロイヤリティ)が強いように感じます。」「リワーク社員は総じて離職前に比べ、パフォーマンスが上がっている実感はあります。」と、フラットな目線で語られていたのが、印象的でした。

こうしたアルムナイの活用は、「ローパフォーマーとなった場合のリスクではなく、ハイパフォーマーの可能性を損ねない」という考え方をベースとした、今回の新人事制度によって、よりいっそう支えられていくでしょうし、さらにアルムナイが活躍し、発展していく、そんな新たな「異質さ」を期待させる取り組みだと思わざるを得ません。(アルムナビ編集長・勝又 啓太)