人事における「匿名コミュニケーション」の価値

2018年05月22日

匿名型SNS、匿名質問サービス、匿名チャットアプリ……。

人々が複雑なネットワークでつながり、連絡手段が多様化した昨今、素性を明かさずにやりとりをする「匿名系サービス」が再び注目を集めています。匿名によるコミュニケーションはどのように発展し、今のかたちになったのでしょうか。

一般向けの娯楽ツールとしてだけでなく、人材業界においても「匿名」であることは重要な役割を担っています。人々に必要とされる背景からHR領域での活用法まで、「匿名コミュニケーション」の価値について考えます。

_

Sarahah、Peing、NYAGOなど、次々に登場した匿名系サービス

_

匿名系のサービスは以前からあったものの、2017年後半から特別な盛り上がりを見せました。

2017年11月頃からSNSを賑わせたのは、「Sarahah(サラハ)」という匿名メッセージングアプリ。サウジアラビアで誕生して中東から人気に火が付き、日本でもInstagramやTwitterを使ってメッセージに応えるのが流行しました。

Sarahahを開発した本来の目的は、「同僚や友人からフィードバックを受け取り、自分の強みや弱みを発見することで、改善に役立てられるように」ということだったようです。しかし、日本ではすっかり「質問箱」として使われていましたよね……?

ここに目をつけた個人の開発者により、日本向けにローカライズされた「Peing(ペイング)−質問箱」がリリースされると、さらに匿名質問ブームは加速しました。約1ヶ月で月間2億PVペースまで拡大したのち株式会社ジラフに買収され、多言語対応や機能追加をしながら今も人気を博しています。

さらに2018年3月には、匿名チャットアプリ「NYAGO(ニャゴ)」がリリースされます。1問1答形式のSarahahやPeingとは違いチャットができるのが特徴で、サービス改良のため一時停止になるほど大きな話題になりました。

次々に新しい波が現れる「匿名系サービス」ですが、SarahahやPeingで質問される内容は何気ないことばかりです。「聞きにくい質問」というわけではなくても、匿名というだけでコミュニケーションのハードルが一気に下がることがわかりました

質問者の中には、普段から交流のある友人もいるでしょう。面と向かってわざわざ言うほどではないけれど、匿名なら言ってしまいたくなることは多いのかもしれません。

 

 

ネット上で賛否両論を巻き起こしてきた「匿名」の歴史

_

今でこそ「実名・匿名論争」などが起こるようにもなりましたが、インターネットはもともと「匿名の場所」でした。

日本で最初のホームページ(茨城県つくば市にある文部省高エネルギー加速器研究機構計算科学センターの森田洋平博士)が誕生したのは1992年。そこから、パソコンを手に入れた若者が趣味でサイトを開設し、そこに集まる人々が交流するようになります。

掲示板にハンドルネームを使って書き込みをし、画面の向こうにいる見知らぬ人とやりとりをすることが、匿名コミュニケーションのはじまりでした。

しかし、1999年に「2ちゃんねる」が設立された頃から、「匿名」が問題視されるようになりました。議論がエスカレートすると、素性を明かさず安全圏から文字で攻撃する「荒らし」や「誹謗中傷」が蔓延したのです。

2000年代に入ってSNSが登場すると匿名のハードルがさらに下がり、感情をむき出しにする人が多くなると「叩く」や「炎上」のような言葉も生まれました。

こうして匿名の危険性が叫ばれるようになりますが、一方で同じくらい匿名による恩恵があったのも事実です。インターネット上の匿名の書き込みによって世に出た「実名では言いづらい本音」はどれだけあったでしょうか?

2016年に話題になった「保育園落ちた日本死ね」というはてな匿名ダイアリーの投稿は、記憶に新しい人も多いでしょう。ひとりの匿名投稿によって歪んだ社会の問題が明るみに出て、政治も巻き込む大きな論争となりました。

身近なところでは、進学先や就職先を決める際に、ネット掲示板で評判をチェックした経験は誰にでもあるはずです。日常の些細な意思決定においても、匿名のレビューや口コミの評価は私たちの生活に欠かせないものになっています。

実名で出せないような情報にこそ、貴重な価値が眠っているのかもしれません。情報が溢れているこの時代、こうした有益な情報をどうやって引き出すかが、重要な鍵になってくるはずです。

 

人材業界において、「匿名」はどう活用できるのか

_

インターネットを使った匿名コミュニケーションには大きくわけて2種類あります。

ひとつは、普段まったくつながりのない人と行う匿名コミュニケーション。もうひとつは、普段関わりがある人と行う匿名コミュニケーションです。

人材業界においては、前者の例として「Vorkers(ヴォーカーズ)」や「カイシャの評判」などの社員による口コミサイトが存在しています。現役社員や退職した元社員による、匿名だからこそ言える「生の声」が見られると重宝されています。

しかし、これからさらに注目されると考えられるのは後者です。複雑かつクローズドに人間関係が構築されていく「組織(=会社)」のなかでは、リアルのつながりがあるからこそ、より匿名コミュニケーションの価値が活きてきます

日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、海外では「社内向け匿名SNS」が一般化しています。米国発の「Blind(ブラインド)」のような、同じ会社や業界の人がオンライン空間上で情報交換するサービスに注目が集まり、AmazonやNAVERなど多くの企業が導入しています。

発信者が特定されないため、肩書や役職にとらわれずにフラットにコミュニケーションを取ることができ、ビジネスを円滑に進めるためのツールとして一役買っているのです。

後のことを考えると言いづらい、関係を壊したくないから言い出せない……。こうして埋もれてしまった情報のなかにこそ、組織発展のためのヒントがあるのかもしれません。

 

 

アルムナイ(企業のOB・OG)との匿名コミュニケーションの可能性

_

あらゆる「匿名による本音」のなかでも、「辞めてしまった元社員」の本音は貴重です。退職にはさまざまな理由があるとはいえ、何らかの不満を抱えていた人も少なくないはずだからです。

人材の流動が激しくなる世の中で、匿名で拾い上げた「退職者の本音」はかけがえのない会社の財産となるでしょう。

たとえば、たった1年で退職してしまった若い社員がいたとします。在職中は光っていないように見えたとしても、単に自信がなかっただけで、実は大きなポテンシャルを持っていたかもしれません。

せっかく時間をかけて採用し、縁あって入社してくれた人材なのに、転職先で大成功を収めた頃には一切の接点がなくなってしまっている……。今だから言えることがたくさんあるかもしれないのに、こんなにもったいないことはありません。

これまで、辞めた個人が古巣に対して意見を言うには、在職中の社員を介して伝えるくらいしか手段がありませんでした。しかし匿名コミュニケーションによって、辞めた人からの貴重な意見を効果的に吸い上げることができるようになるのです。

アルムナビを運営するハッカズークでは、アルムナイとの匿名チャット機能を搭載したシステムを提供しています。数社の企業様が早くもアルムナイとのコミュニケーションを試みており、アルムナイも一緒に参加するセミナーなども行っています。

匿名ブームが来ている今こそ、アルムナイとの匿名コミュニケーションに挑戦してみてはいかがでしょうか