【社労士連載③】アルムナイ・リレーションにつながる退職手続

2018年07月05日

「アルムナイを知ること」は、「退職を知ること」でもあります。連載第三回となる今回は、一般的な「退職までの流れ」をわかりやすく見える化するとともに、肝心の「アルムナイ・リレーション」につながる退職手続きについて解説してもらいました。

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アルムナイ・リレーションのスタートは言わずもがな「退職」です。つまり社員がアルムナイとなって退職後も会社と良好な関係を築くためには、この「退職」時に会社とどのような体験をしたかというのが重要なポイントの一つになります。

そのため、ここでは退職時における会社が行うべき基本的な退職時の手続きのフローを明確にし、そこからさらにアルムナイ・リレーションにつながるためにどんなことをしたらもっとよくなるのか、について取り上げたいと思います。

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一般的な退職手続きを復習

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会社は、社員から退職の意志を受け取ってから、実際にどんなことを行い、どんな手続きすればいいのか、一つひとつ整理・解説していきます。

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退職日と最終出社日を明確にする

会社が、社員から退職の意思を伝えられたなら、まず、「退職日」と「最終出社日」を明確にする必要があります。退職日までの間に有給をある程度消化する方も多いので、退職日(会社を在籍しなくなる日)と社員と直接面会できる最終出社日にはギャップがあるものなので。

そこが明確になっていないと、引継ぎなどその社員にしてもらうタスクとスケジュールで混乱してしまう可能性があるためです。

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退職届を受け取る

次に、退職の意思の確認をとれ次第、必ず書面で「退職届」をとりましょう。多くの会社では退職の申出について「退職日の〇日前までに」と期限を設けており、これを「退職日の提出した日」と定義している会社も少なくありません。

退職日の目途が立った段階で退職届の提出も促し、手続きに支障のないようにしましょう。

退職届は、法律上必ず書面でもらわなければならないものではありません。しかし、書面で受け取ることによって、退職日や退職理由(自主退職なのか解雇なのか)について後から言った・言わないなどの不要なトラブルを避けることにもつながりますので、必ず書面で受け取ることをお勧めします。

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本人から回収すべきものを明確にする

会社が本人に対して貸与していて、回収すべきものがある場合は最終出社日までにリストアップして、本人にしっかりと伝えましょう。

たとえば以下などが挙げられます。

  • 健康保険証
  • 社員証
  • 貸与していたパソコンや携帯電話
  • 社員が持っている社内資料や顧客資料

上記のうち、健康保険証などは退職日まで使えることになるため、最終出社日から実際の退職日まで日がある場合は期限を設けたうえで後日郵送などの対応を取るケースも多いようです。

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退職後の連絡先などの住所と連絡先を得る

退職後に役所へ手続きした書類のやり取りなどで連絡をする必要が出る可能性があります。そのため最低でも以下はもらうようにしましょう。

  • 連絡がとれる電話番号
  • 書類の送付先(住所)
  • 個人のメールアドレス

さらに、気がかりを与えないために上記の情報の使い道も伝えておきましょう。

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退職後の手続き

本人が正式に退職をしたら今度は公的機関等への手続きを行います。

  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
    • 退職日の翌日から5日以内 → 管轄の年金事務所へ社会保険の脱退手続きをします
  • 雇用保険被保険者資格喪失届(離職票の発行)
    • 退職日の翌日から10日以内 → 管轄ハローワークへ雇用保険脱退の手続きをします
  • 給与支払報告に係る給与所得異動書
    • 退職日を含む月の翌月10日 → 給与から住民税を天引きしていた場合には納税先の市区町村に普通徴収(もしくは転職先からの天引き)に切り替える手続きをします
  • 健康保険資格喪失連絡票
    • 退職日以降、退職者が市区町村で国保へ切り替える際の書類として必要になる(一部不要な市区町村あり) → 書類これは最終出社日までに用意をして渡しておくとスムーズでしょう

そして上記の手続きが完了して、離職票など本人に渡すべき書類も発送することで、手続きは完了します。

人が一人辞めるというのは、意外と手間がかかるものですが、こうした手続きをしっかりと、スムーズに滞りなく行うことは、最低条件だと言えます。

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アルムナイ・リレーションにつなげるために

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つづいて、アルムナイ・リレーション施策の観点から、退職後もさらなる関係性を築いていくためには、どんな取り組みをどんなタイミングで行うのが望ましいかを見ていきます。

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退職者面談

通常、退職者面談というと、直属の上司、さらなる上長との面談というかたちで、各部門に任せているケースが多いようです。ここに、人事労務の担当者、アルムナイ・リレーションズチームといった、直接の利害関係の少ない者が、その社員本人からヒアリングを行うという取り組みをおすすめします。

会社で得た経験を通して次はどんなキャリアを描こうしているのか、なぜ今、退職するという選択をしたのかなど、今後の人事育成やマネジメントの参考になることを聞ける可能性も十二分にあるでしょう。また、リレーションズチームがヒアリングを行うことで、働いていた部署や直接の上司に言えない退職の理由を聞けるかもしれません

リレーションズチームのような、直接の職場(上司)以外の第三者が聞くことによって、その方の退職理由が、会社全体で取り組まなければいけない(もしくは取り組んだほうがよい)ものなのか、それとも実はその部署(上司)に問題があることなのか、そもそも仕方のないことなのか、など退職理由を会社の働く環境のために有効に扱うことも可能になってきます。

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アルムナイ・リレーションへの招待

また、退職手続きと並行して、アルムナイ・リレーションへの招待も行うことも有効な取り組みです。会社側でアルムナイ・リレーション/ネットワークへの案内を作成して本人に説明をする業務委託など今後の協力関係に向けた契約書を渡すなどをすることで、イメージをつけやすくすることも可能です。

退職後も連絡をして良い旨に同意してもらえれば、リレーションへの可能性はつくれますし、退職後に会社での経験を生かしたいキャリアモデルとしても協力してもらえるかもしれません。

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やってはいけない

逆にアルムナイ・リレーションを創り上げるうえで機能しなくなってしまう「やってはいけない」ことが、むやみに退職後の活動を制限することです。

労働者には「職業選択の自由」があるにもかかわらず、むやみに「競業禁止に関する誓約書に署名をさせる」などがその最たる例と言えるでしょう。ノウハウの流出などを警戒するのであれば、「機密保持に関する誓約書」に留めておくのが良いでしょう。

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事務的な流れ作業ではなく、「退職体験」を

ポイントしては退職の流れを一つの手続き業務として事務的に終わらせるのではなく、退職後の良好な可能性に向けた取り組むことです。入社式で感動的な演出をするように、極論を言えば、退職のタイミングにおいても、エンゲージメントを高める体験を作るくらい気持ちが必要かもしれません。

こうした取り組みが、「退職後もスムーズに手続きを滞りなくおこなってくれる会社」「退職についての自分の意向を受け取ってくれる会社」「退職後の自分も応援してくれる会社」であるという安心感につながり、長期的には今働いている他の社員や会社の働きやすさにつながるのです。

寄稿


社会保険労務士
笠間 啓介

1987年4月生まれ 一橋大学卒業。在学時代に社会保険労務士の資格に出会い試験合格、卒業後、都内の社会保険労務士事務所に就職。在職中は社員が1人の起業から800人規模までのクライアントを受け持つ。2016年4月に独立しSHR社会保険労務士事務所を開業。現在は80社余の企業と顧問から人事制度の構築など幅広く携わる。