【社労士対談①】深掘り!アルムナイ・リレーションのための退職手続

2018年07月31日

アルムナイに関するノウハウや運用を、労務管理の観点で解説する「社労士連載」。
第3回「アルムナイ・リレーションにつながる退職手続」からは、トピック別に具体的な各論へわかりやすく落とし込んでいます。さらなる運用ノウハウを知るために、連載いただいている笠間啓介先生と、アルムナビ編集長の勝又との対談形式で、深掘りする企画を開始します。

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勝又:
今回の第3回の連載のテーマは、「退職手続き」でした。人事業務の中でも、「退職手続き」って、大企業の人事の方であれば役割分担があるため担当したことがある方は限られているでしょうし、中小企業の人事の方であれば、社員数の関係で退職ってそこまで頻繁にあることではないため慣れている方は多くはないでしょうし、そういう意味でもこうして基本的なまとめは役立つんじゃないかと感じました。

まさに笠間先生がおっしゃるように、この退職手続きをスムーズにすることがアルムナイ・リレーションの最低条件だと思うのですが、逆に、たとえば、不慣れだからと、万が一何かしら滞るとどんなことが起きてしまうのでしょうか。

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笠間:
起こりうることとしては、離職証明書の発行が遅れたことがもとで、アルムナイ本人の基本手当(失業給付金)受給が遅れてしまうということです。

自己都合で辞めた方の場合は受給するまでの間に待期期間だけでなく、3ヶ月の支給制限期間というものがあります。そして、ここに落とし穴があるのですが、この待期期間や受給制限期間は本人が離職票をハローワークに持って行き、離職票の提出と求職の申込みを行った日から起算が始まるため、会社からの離職証明書の発行が遅れると、それだけ本人が受給できるタイミングが遅れる可能性もあります。また、そこまで遅れることはほとんどないでしょうが、自己都合の場合は離職日から1年と受給可能な期間も決められています(雇用保険法第20条)。

受給金額などは人によっては結構な金額になることがあるので、実際に起こった記録はないですが、極端な話、この遅れが何らかのかたちで受給できなくなることにつながったとすると損害賠償として請求される可能性も考えられます。

そこまでいかないにしても、お金が絡むことですから、ちょっとしたことでもトラブルにつながりやすいのはわかりますよね。離職票の手続きをはじめとした退職後の手続きを滞りなく行うことは最低条件だと言えるのです。

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勝又:
どんなに円満退社だったとしても、お金のことで揉めては、本人のみならずその家族などにも影響してしまいますもんね。台無しです(笑)。

さて、今回ご提示いただいた「手続き」フローで、「最終出社日」と「退職日」にズレがあるのは、有給休暇の消化が主だと思いますが、企業によっては、「買い取り」というパターンもあったり、逆に「消化させない」みたいなパターンもありますよね?

後者は「退職体験」としては良くないとは思うのですが、労務的にはこの有給休暇の取り扱いで注意事項はありますか?

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笠間:
「退職」と「有給」というものは実は微妙な問題なんです。まず「有給」をとりたいという社員に対しては会社は「拒否」ができません。できたとして「時季変更権」つまり「別日にして」とお願いすることです(労働基準法第39条5項の但書)。しかし、退職を控えるとそもそも「別日」の選択肢自体がなくなるので、こうした対応ができず結局は「困るんだよね~」という圧力に頼らざるを得なくなります。もちろん、有給を取るのが一般的な職場で本人がいままで計画的に取ってこなかったというのであれば話は別ですが、こうした会社都合の圧力が働くと、会社との関係性の悪化は避けられないでしょう。

常日ごろから社員の有給休暇取得に対してオープンであればこのようなことは起こらないわけですけど、そうした事態の回避のために消化しきれない有給の「買い取り」というのが有効であると考えられています。

今後、アルムナイ・リレーションが活性化している会社で、再雇用もあたりまえになっていけば、の話ですが、将来的に再雇用につなげることを見越して、たとえば買い取りはしない代わりに、再雇用で出戻りをしてきてくれた時に前回の退職時に消化してなかった有給を繰り越すなんて、会社にとっても本人にとっても前向きな解決策も増えていくかもしれませんね。

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勝又:
それはちょっと先進的で驚きもありますが、ありなのかもしれません。特に転職タイミングの関係でどうしても有休消化できないけど、アルムナイ側もあえて買い取りを要求しないみたいなパターンってあるじゃないですか。もちろん買い取りできるのが一番でしょうがそうもいかない場合、「『消化も買取もしなくていい』って言ってたけど、せめて会社としては、もし戻ってきたら残ってた有給休暇くっつけさせてください」というのは、本質的じゃないにしてもちょっとした嬉しさがあると思います。たとえその権利を行使する機会はないにしても、会社とのゆるいつながりの一つにはなるというか。

また、会社と社員の関係性という意味では、インターネットでもよく尋ねられている初歩的な質問で恐縮ですが、一応「アルムナイ・リレーション」の観点からの確認しておきます。マナー的な観点だと、「退職届」はNGで、「退職願」にしろみたいな話をよく聞くじゃないですか。「退職体験」の観点も交えて、再度この違いを確認させてもらってもいいでしょうか。

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笠間:
はい、端的に言うと「願」=「退職させていただけませんか?」「届」=「退職しますね」です。

つまり「退職願」は受理されて、これが承諾されたところで初めて退職の意思表示が有効になります。一方で「退職届」は渡して受理された時点で退職となります。マナー的な観点からすると「退職願」の方が相手に「承諾をする」余地を与えることができる分望ましいといったところでしょうか。なので、本来は大きな違いはありません。

ただ、アルムナイ・リレーションの観点で極論を言ってしまえば、「退職願」を会社が承諾しないのであれば「退職届」として提出してしまえばそれまでという考え方では、両者の関係性構築は難しいところからのスタートになってしまいます。

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勝又:
アルムナイ・リレーションは、現職社員の退職を喚起するものではなく、会社と社員の関係性を柔軟にしてお互いの損失をなくし、新たな価値を築いていくものでもありますから、「退職願」なのか「退職届」なのかなんて細かい違いでゴタゴタしている場合じゃないですよね(笑)。

あと、続いて細かいところで、健康保険証ですが、退職から新しい健康保険証を入手するまでタイムラグ出ちゃいますよね。転職が珍しくなくなったとはいえ、そこまで転職慣れしている人ってそんなにいないわけで、退職後の健康保険証の取り扱い、気をつけたほうがいいことあれば教えてください。

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笠間:
退職してから転職するまで、日が空いている場合は、その間、会社の保険には入れなくなるので、原則として市区町村の国民健康保険に入ることになります。なので、退職日の翌日以降に住民票のある市区町村へ行き国民健康保険証の加入手続きをすることが必要になります。

その際は退職して健康保険を抜けたことを証明する「健康保険被保険者資格喪失連絡票」なければ「離職証明書」などを持って行く必要があります。

ちなみに市区町村の保険証は年度末(3月31日)で切り替わるので、転職中の期間がこの日をまたぐ場合は家に届く新しい被保険者証に切り替えるようにしましょう。僕の場合はこれをうっかり忘れて古い保険証をもっていき、医療費を10割支払う羽目になるという痛いミスをしたことがあります。社労士として恥ずかしい限りです(笑)。

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勝又:
弘法も筆の誤りですね(笑)。とにかく手続き面で、落とし穴がたくさんあるということはわかりました。

さて、アルムナイ・リレーションを築くためには、会社と社員とをつなぐ「線」が必要なわけですが、そのためにも連絡先を把握しておくことって大事ですよね。逆に、所属した社員の個人情報って何年以内に破棄しなくちゃならない、みたいな法律やルールってあるんでしたっけ?

たしか履歴書は3年保管しておかなくてはならないとは聞きますが、逆に、3年経ったら破棄すべきってルールもあるんですかね?

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笠間:
履歴書というよりは、厳密には労働基準法107条では労働者名簿を退職後3年間は保存しなければならないと定められています。こうした情報は「〇年間保存しなければならない」という決まりはある一方、実は「〇年間経過したら破棄しなければならない」という定めはありません。

ただし、「破棄しなければならない」と定められているレアなケースがマイナンバーです(番号法20条)。たとえば扶養控除等申告書は、7年間保存することとなっていることから、これを経過化した場合に破棄をしなければならないということです。

そのため、マイナンバー以外の情報について言えば法律上保管し続けることはできるので、アルムナイとの関係性を保持することを考えるのであれば、そこは会社の中で責任をもって保管し続けることが必要といえるでしょう。

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勝又:
いたるところで言っていることですが、退職は「断絶」ではなく「新たな関係性の始まり」なので、これからは退職者との連絡先についての考え方も変わっていくはずです。退職者の情報も、「保存・保管しなければならない」という守りの姿勢から「いかにスムーズなつながりを構築し、リアルタイムでアルムナイの状況を把握していくか」という攻めの姿勢がポイントになっていくんでしょうね。

本日はありがとうございました。次回連載もよろしくお願いします!

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プロフィール


社会保険労務士
笠間 啓介

1987年4月生まれ 一橋大学卒業。在学時代に社会保険労務士の資格に出会い試験合格、卒業後、都内の社会保険労務士事務所に就職。在職中は社員が1人の起業から800人規模までのクライアントを受け持つ。2016年4月に独立しSHR社会保険労務士事務所を開業。現在は80社余の企業と顧問から人事制度の構築など幅広く携わる。