トレンダーズが示すアルムナイリレーションの1つの理想型

ダイバーシティへの取り組みが印象的なトレンダーズ。社員一人一人が自分の望むキャリアを形成できるよう、さまざまな仕組みや制度を用意しています。そのなかには「アルムナイ歓迎制度」の記載も。

どのような制度なのか、また、なぜこうした仕組みができたのか、副社長の黒川涼子氏にお話を伺いました。

PROFILE

トレンダーズ株式会社 取締役 副社長執行役員COO
黒川  涼子 

慶應義塾大学卒業後、大手アパレルメーカーに入社。営業から店舗管理まで幅広く経験した後、大手人材派遣会社に転職、販売職派遣の新規事業立ち上げに携わる。
その後、化粧品会社の執行役員を経て、2006年トレンダーズに入社。化粧品・食品・家電・生活消費材など幅広い企業のマーケティング支援に携わる。トレンド分析や女性のインサイトについてのラジオ出演や講演多数。

社員一人ひとりのタレント性が生んだトレンダーズの多様性

——貴社はWebサイトや各種メディアなどで、「多様な働き方」「社員の持つ多様性を活かす」といった、ダイバーシティ経営への取り組みを謳っているのが印象的です。ダイバーシティを大切にする文化が生まれた背景には、どのような狙いがあったのでしょうか?

実は私たちの中では「ダイバーシティ」という言葉はあまり使わず、「United Talent」という言葉を使うことが多いです。

というのも、トレンダーズという会社は企業のPRやプロモーションのお手伝いをしているのですが、お客さまがトレンダーズにお仕事の依頼をしてくださる理由の一つは、社員のタレント性にあると思っているからです。

「この人面白いね」「この人と仕事してみたい」と、トレンダーズというフレーム以上に、社員個人に対してお仕事がいただけている。そういう意味では、やはり社員一人一人の個性が当社の一番の強みですから、タレント事務所のような感覚でいたいと思っています。

——社員の方々の個性が貴社のサービスを支えているからこそ、多様性を重視されているのですね。

ただ、本音を言えば経営にプラスになるから多様性を大切にしようと思ったわけではないんです。「これからの時代は多様性が重要」ということも必要な時には言いますけど、単純に、私は面白い人が好きなんです。同時に会社も面白くありたいと思っていたら、気付けばこのようなかたちになっていた、という感じですね。

——貴社ウェブサイトでは「アルムナイ歓迎制度」が紹介されていました。アルムナイもダイバーシティの一つだと思いますが、これも狙って取り組んでいるわけではないのでしょうか?

そうなんです。従業員数150名強と、規模が小さいこともあって、社員とのつながりは深いんですよね。退職相談をされるときは、「もう一生口きかないけど、それでもいいの!?」なんて冗談を言うこともありますが、そうは簡単に縁を切れないんです。きちんと見送って、その後も定期的に会って、時には相談に乗ることもあります。

それに、卒業した皆がどうしているのか、私が気になるんですよね。ですから、月に1度は誰かしらの卒業生と会っていますし、なんなら今日も卒業生とランチをしました(笑)。逆に、オフィスにふらっと遊びにきてくれる卒業生もいますし、私が副社長に就任した時は、卒業生が集まってお祝いをしてくれたこともありました。

当社としては以前から当たり前のように行ってきたことだったのですが、いつしか求職者の方や中途入社の社員から「良い会社ですね」と言われるようになって。他社の経営者には「退職した社員とは会わない」という方針の方もいらっしゃるので、「これはトレンダーズの個性になりうるのかも?」と思ったんです。せっかくなので「アルムナイ歓迎制度」として打ち出し始めました(笑)。

——アルムナイの取り組みをしようと思ったわけではなくて、普通に退職者と交流する中で、結果的に生まれた制度だったんですね。具体的にはどのような制度なのでしょうか?

現状は私や他の経営メンバーが定期的にランチや飲みに行ったり、麻雀したり、数カ月に一度卒業生数名で集まったりしています。正直、今はまだ制度というよりは、「アルムナイといい関係を築きたい」という気持ちの表明なんです。今後は卒業生にオフィスを自由に使ってもらうなどの制度も考えていきたいと思っています

「円満じゃない辞め方がどういうものか、イメージができないです。」

——「退職者=裏切り者」と考える企業はまだまだ少なくありません。そんな中、貴社はなぜアルムナイと良好な関係を築けているのでしょうか?

在籍中に同じ目標に向かって関係性を築き上げた社員とは、退職後も様々な形でつながっていたいと思っているだけで、当たり前にやってきたことなので、何か特別に意識して取り組んでいるわけではないんです。

また、多様性の話にも通じるのですが、私自身はあまりトップダウン的なマネジメントが好きではありません。できるだけ皆の意思を尊重して、良さを引き出したい。そして私自身も皆から学びたい。そういう意味で役職や在籍の有無に関係なく、フラットな関係性でありたいと思っています。

私たちは「退職エクスペリエンス」と呼んでいるのですが、辞意表明~退職時にどういった対応をしたか/されたかが関係性に大きく影響します。アルムナイと良い関係を築くために、何か気を付けていることはありますか?

「辞める」という話が上がった時点で、とにかく最優先で対応をして、まずは話を聞きますね。その人が今後どんなキャリアを描きたいのかを理解できるまで聞いた上で、引き留めをすることもあれば、逆に転職先の紹介や条件交渉のアドバイスをすることもあります。

——そうやって話し合いを重ねるわけですね。とはいえ、喧嘩別れのようになってしまうことはないのでしょうか?

一回もないですね。むしろ円満じゃない辞め方がどういうものか、イメージができないです。退職のタイミングが残念ながらこちらの意向に沿わないケースもありますが、退職が決まった後は皆最後までミッションを全うしてくれていますし、気持ちよく送り出すことができています。

——お互いが納得できるまで話し合いをするには、退職者が本音を話せるだけの信頼関係が必要だと思います。そのために普段から定期的にランチに行ったり面談の機会を設けたりする企業は多いですが、なかなか上手くいかないという声も聞きます。貴社ではなぜそういった信頼関係が築けているのでしょうか?

1on1の面談の場はもちろん、お祝いの食事会や社内のイベントのようなカジュアルな場でも、相手に何かしらのメリットを与えられるように心掛けています。ただ話を聞いてあげるだけなら誰でもできますから、的確なアドバイスをするなり、不満に対しては改善の具体的なアクションを起こすなり、「話してよかった」と思ってもらえるように意識しています。そういった積み重ねも大きいのではと思いますね。

アルムナイとのつながりが生む、「ならでは」の価値

——アルムナイと関係を保ち続けていて、良かったと思うことはありますか?

たくさんあります。直接的なところでは卒業生から仕事の発注をもらったり、求職者を紹介してもらったりしたことがあります。

起業したりフリーランスになったりする卒業生も多いので、当社の仕事を手伝ってもらうこともありますね。お願いしたい仕事の内容がふわっとしていることもあるじゃないですか。そういうプロジェクトに入ってもらうときに、「この人にこの金額でお願いすれば、相応のパフォーマンスを絶対に出してくれる」と思える信頼感があることは、一番のメリットだと感じます。こちらの事情もよく分かってくれているので、その上で意見をくれることもありがたいですね。

副業やパラレルキャリアが普及すればするほど、アルムナイにスポットで手伝ってもらう機会はどんどん増えていくんじゃないかと思います。

間接的なメリットはいかがでしょう?

アルムナイとの情報交換はとても勉強になりますし、人脈にもつながると感じています。同時に、「外部から見てトレンダーズという会社はどうなのか」という客観的な視点の意見が聞けるのもうれしいですね。「トレンダーズはここが強いけど、ここは弱い」「他社はこうしているから改善した方がいい」などの具体的なアドバイスがもらえるのは大きなメリットだと思っています。

また、「社員の目から見た経営者」の話が聞けることは、私にとってとても勉強になるんです。やはり社内のメンバーから経営者に対するフィードバックはなかなか出てこないじゃないですか。良いことは言ってくれても、当然悪いことは言いにくい。

ですから、「転職先の社長のこういう言葉が響いた」「この発言は嫌だった」みたいな話を教えてもらえるのは助かるんです。「なるほど、こういう時はこうメッセージすると良いのか!」と非常に参考になります。卒業生の近況が気になって連絡を取っていたところがスタートでしたけど、やり取りをしていくうちにさまざまなメリットがあると気付きましたね。

——卒業生が再びトレンダーズに戻ってくることもあるのでしょうか?

転職したがっているという噂を聞いたら、「戻ってこない?」と誘うことは積極的にしています。退職時の面談でも本人のキャリアの方向性によっては「いつでも戻っておいで」と話していますし、実際に復職の実例も増えてきていますので、今後はもっと増えるんじゃないかと思っています。

——アルムナイと関係を持つことのメリットはたくさんあるんですね。

私自身は、卒業生と退職後も関係を保つことは絶対的なメリットしかないと感じています。結局、グラデーションなんだと思うんですよね。

在籍中の社員でも、会社との関わり方や会社に求めるものは様々で、役職に就くことを目指す人もいれば、専門的なスキルを身に付けたい人もいて、副業をしたい人だっている。今年の4月に島根オフィスを開設したのですが、そこで頑張ってくれている社員たちもいる。そして同じ人でも、キャリアの方向性やライフステージによって会社との関係性は常に変化していくものです。

「内と外」で関係性が断絶されるのではなく、その変化の延長線上に卒業生があるというイメージです。社員もアルムナイも、人と人として、そして人と会社として、より良い関係性を目指し続けるという意味では同じなのだと思います。

文:天野夏海

編集後記

「円満じゃない辞め方がどういうものか、イメージができないです。」この言葉を言える会社、なかなかないのではないでしょうか。

アルムナイとはランチや飲みにいくなどのライトな関係が続くのはもちろん、仕事の発注をもらったり、逆に仕事をお願いしたり、求職者を紹介してもらったりなど、ビジネスにつながる関係も続いているそう。

アルムナイからの恩恵を受けているトレンダーズですが、その裏にあるのは、「信頼関係」と惜しみない「Giveの姿勢」。社員が本音で話せる信頼関係と、「辞める」という話があった際の誠実なトレンダーズの姿勢が、退職後のアルムナイとの良好な関係につながっていると感じます。

もともと狙って取り組んだわけではないというトレンダーズの「アルムナイ歓迎制度」。今後どのような取り組みをされるのか、楽しみです!(アルムナビ編集部・築山  芙弓)