クラレの「カムバック採用制度」と「退職者とのネットワーク創り」が社員・アルムナイの双方から好評な理由

「カムバック採用制度」を2019年9月20日より開始した株式会社クラレ。一度辞めた社員の出戻りを受け入れる企業は増えていますが、クラレの特徴は「クラレに再入社したい」というアルムナイ(退職者)だけでなく、「戻りたくない(あるいは戻れない)けど、ゆるく繋がりを持ちたい」という人とも交流を持つべく、アルムナイとのネットワーク創りも同時に開始したこと。

そこで同社人事の山崎氏と米原氏にインタビュー。社員・アルムナイの双方からも好評だという今回の制度。退職者への風当たりが強い企業もまだまだ多い中で、クラレではなぜアルムナイの取り組みが受け入れられているのでしょう?

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PROFILE

株式会社クラレ 総務・人事本部 人事部 採用・研修グループ主管
山崎 誠司  

2000年クラレ入社。同社新潟事業所人事、人事部 労務グループ、クラレアメリカ勤務を経て、2018年1月より現職。

株式会社クラレ 総務・人事本部 人事部 採用・研修グループ主管
米原 徹 氏

1989年クラレ入社。事業所総務、人事部、東京広報部、ポバール販売部に勤務ののち、クラレファスニング丸岡工場総務部長、つくば研究センター総務課長、倉敷中央病院人事課長を経て、2018年9月より現職。

転職した結果「やっぱりクラレが良かった」と思うことだってある

なぜカムバック採用制度を作ったのですか?

山崎:若手の離職率が徐々に高まってきたことが背景にあります。

ただ、「離職率の向上」とは言っても、一人一人の退職理由を見ていくと家庭の事情や新しい環境でチャレンジしてみたいという方が多く、決してクラレが嫌で辞めるという人ばかりではなかったんですね。タイミングが合えばまたクラレで働いてくれるかもしれないと思っていましたし、「クラレに戻ってくることに関心を持っているアルムナイがいる」という情報も聞いていました。

今回カムバック採用制度を公式につくることで、辞めた人を再度受け入れる仕組みが会社にあることの認知を高め、潜在的にクラレへ戻ってきたいアルムナイに対しても会社のスタンスを知ってもらい、お互いのタイミングが合う時に戻ってきてほしい。そんな想いがありました。

クラレの「カムバック採用制度」は、別のキャリアを歩むために退職をしたアルムナイも対象になるのでしょうか?近しい制度を持つ企業の中には、「家庭の事情など止むを得ない理由で退職をした方のみが対象」というケースも多い印象です。

山崎:はい。当社の「カムバック採用制度」は、家庭の事情での退職に限定せず、自らの意思で異なるキャリアを選択された方ももちろん対象です。

アルムナイの転職先はさまざまですが、最近ではベンチャー企業やコンサルティング企業へ転職される方が多いです。また、クラレで海外駐在を経験した方の中には、海外の働き方に触れたことで外資系企業に興味を持ち、実際に転職される方もいます。

「ベンチャーで自分の力を試してみたい」「別の業界を見てみたい」など、さまざまな想いを持って転職をした結果、「やっぱりクラレが良かった」と感じることってあると思うんです。それは転職に失敗をしたというわけではなく、外の世界を見たからこそ気がつくことはあると思いますし、そういったアルムナイのカムバックも歓迎しています。

異なる環境で働いたアルムナイがクラレにカムバックすることで、どのような良さがあると思いますか?

米原:2つあって、一つは即戦力となってくれることです。もともと社員として働いていたので製品知識や社内ルールなども理解している。ゼロから研修をする必要がなく、キャッチアップが速いんです。社内の文化・雰囲気への順応に関しても心配がありません。会社にとってもありがたいですし、カムバックした社員もスムーズに馴染むことができ、お互いにやりやすいですね。

もう一つは、他社を経験したからこそ得ることができたスキル、ノウハウ、異なる文化をクラレに取り入れてくれることです。クラレの文化も知った上で外の風を入れてくれるアルムナイの存在はとても貴重だと考えています。

株式会社クラレ 米原氏

ポイントは制度のメリットを論理的に説明し、退職する社員に誠実に向き合うこと

— 制度化に至るまでの具体的な流れについて教えてください。

山崎:2019年の春頃から検討を始め、同年9月にカムバック採用制度に関するプレスリリースを出しました。

もともと人事部長の頭の中に制度のイメージがあり、私の頭の中には「アルムナイとのネットワーク創り」がやりたいこととしてあったので、検討はとてもスムーズでしたね。2018年の夏にニュース番組「ワールドビジネスサテライト」でアルムナイと企業の関係について取り上げられていたのを観て、退職後も企業と個人がつながる「アルムナイ」というコンセプトや、実際に三井物産さんがアルムナイとのネットワークを持たれていることを知ったんです。

そこでカムバック採用を制度化するのと同時平行で、アルムナイとの関係構築に特化したシステムとコンサルティングを提供しているハッカズークへ問い合わせをし、アルムナイとつながるためのクラウド型のシステム「Official-Alumni.com」を導入しました。

株式会社クラレ 山崎氏

— 制度化に関して、少なからず反対の声があったり、無関心の方もいたりしたのではないかと思います。社内調整や説得はどのように行いましたか?

山崎:実は反対の声はなく、思っていた以上にスムーズに制度化ができました。改めてクラレの役所的ではない「まずはやってみたらいいんじゃない?」という柔軟なスタンスを実感することができましたし、退職した人に対する「許さない!」みたいな反発の感情が案外ないことを身をもって知ることができました。

むしろ、社員・アルムナイの双方から「ぜひカムバックの制度を作ってほしい」という声があがっていたくらいです。

— とはいえ、個別に見ていけば退職者に良い感情を抱いていない人もいたのではと思います。そういう人への対応について、何か工夫したことはありますか?

山崎:感情的になってしまうことってどうしてもあると思います。特に大事な部下に辞められて冷静でいられなくなる気持ちは想像ができます。

だからこそ、アルムナイとのネットワークを持つことやカムバック採用制度の良さを論理的に説明する必要があります。社員にとって社内のことを知っている人が再入社してくれるのは助かりますし、アルムナイもいろいろな想いがあって辞めているとはいえ、「改めてクラレで働きたい」と思った時に戻ってこられるのはメリットですから。

ただ、制度について社員へ伝える際に、「アルムナイとのネットワーク創りは、決して退職を促すものではないことをきちんと説明する」というのは注意しましたね。

アルムナイと良い関係を築くためには、社員の辞め方と会社側の送り出し方が大切です。その点についてはいかがでしょう?

山崎:退職前にしっかりと本音で話すことは非常に大切なことだと思います。当社ではカムバック採用制度を導入する前から、退職を申し出た社員とできる限り本音で話をした上で送り出せるよう取り組んできました。

なぜ退職をしたいのか、本当に円満退職なのかを向き合って話すことで、そもそも辞める時にネガティブな関係になっていなかったからこそ、制度導入に関してアルムナイからも好意的な反応が多かったのではと考えています。

そうでなければ、そもそも誰もカムバックなんてしないですし、アルムナイとつながるためのシステムを導入したところで登録はしてくれない。「辞めたら縁を切る」という考え方であればエグジットインタビューはあまり意味がないのかもしれませんが、辞めてもつながるという考えであれば重要なことだと思います。

アルムナイ向けのインビテーションカードを手に持つ米原氏

退職者の再入社は、企業とアルムナイの関係性から生まれる結果の一つに過ぎない

— 山崎さん、米原さん個人としては、どのような場面でアルムナイとつながる価値を感じますか?

山崎:会社の中にいると気がつかない客観的な自社の特徴を、アルムナイとの対話を通じて知ることができるのは価値だと感じます。

例えばアルムナイの声から、当社の意思決定のスピードが思っていたほど遅くないと知りました。クラレのことも他社のことも知っているアルムナイだからこそ、営業スタイルや人事スタンスの特徴などについてフィードバックをしてくれたことで新しく気づいたことは多くあります。

また、仕事と関係のないところではありますが、会社の歓送迎会にアルムナイが参加することもあります。あとは、海外に駐在していた社員が帰国する時にアルムナイも交えて集まったり。こういった形でかつての仲間と再会することに対しても、個人的には価値を感じています。

米原:以前に新卒採用を担当していた時、研究職の社員がクラレを辞めて大学の研究室に戻ったことがありました。その人は辞めてからも大学の学生を当社に紹介してくれて、実際に採用に至ったケースもあり、とてもありがたかったですね。

他に、その研究室と共同研究を行なったこともあって、さまざまな形で、昔から広く恩恵を受けていたと感じます。

カムバック採用制度やアルムナイとのネットワーク創りに関して、今後はどのような取り組みを行なっていくのでしょうか?

山崎:まだ取り組みを開始して1カ月なのでまさにこれからというタイミングなのですが、まずは社員からの声がけやメディアを通じて制度について発信し、アルムナイへの認知を高めてたいと思っています。アルムナイには任意でシステム「Official-Alumni.com」に登録してもらって、再びつながりを持っていきたいですね。

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※こちらのご登録はクラレのアルムナイ専用です

このシステムでは、社内報などクラレの最新情報を提供しています。中には数年に渡って当社との接点がない人もいるので、情報提供をすることで「今のクラレ」を知ってもらえるようにしています。

今後さらに多くのアルムナイと繋がりを持つ中で、アルムナイがどのような情報を求めているのか、どのような形で社員や他のアルムナイとつながりたいと思っているのかなどニーズを探りながら、登録いただいたアルムナイの方々にとって価値のあるネットワークを創っていきたいです。

ビジネスに関するところでは、例えば「クラレのこの事業部の人と情報交換をしたい」「転職先の会社のこの商品がクラレで活用できると思う」など、アルムナイの方にも当社のネットワークを活用してもらえたらと思います。

米原:基本的には、ゆるやかな関係を築きたいと考えています。アルムナイとのネットワーク創りは、カムバック採用制度の一環として始めたものではありますが、アルムナイがカムバックする背景には良好な関係性があってこそ。カムバックは、関係性から生まれる結果の一つだと思っています。

なので、クラレに戻りたいアルムナイだけとつながるのではなく、アルムナイ同士や社員とプライベートでゆるくつながりたい方や、仕事の情報交換をしたい方、クラレと仕事をする関係になりたい方とも積極的につながり、お互いにとって価値あるネットワークを創っていければと考えています。

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取材・文:築山 芙弓 編集:天野 夏海 撮影:根岸 泰宏

編集後記

インタビューでは、山崎さん・米原さんがご自身の経験からアルムナイとのネットワーク創りにそれぞれの想いを持たれていることがとても印象的でした。「アルムナイの方々にとっても価値のあるネットワークを創りたい」という言葉からも、クラレのアルムナイに対する向き合い方が窺えます。

また、とても素敵だなと感じたのは、「カムバック制度」に対しアルムナイがポジティブな反応であること。山崎さんが「辞める時にしっかり向き合うことの大切さ」をおっしゃっていましたが、最後の最後まで社員と誠実向き合っているからこそ、アルムナイがこういった会社の制度に対し好意的なのでしょう。

クラレのアルムナイネットワークの今後が楽しみです!(アルムナビ編集部 築山 芙弓)