良かれと思って異動を打診したら、部下が突然退職。上司が踏んでしまった地雷とは……?【部下の退職、上司の反省 Case.1】

2019年12月04日

PROFILE

大手IT企業勤務 志田 宏光さん(仮名)

大手IT企業の営業部で働く40代後半の男性。転職経験なし。
20年以上「上司」としての立場で働き、これまで共に働いた部下は60名以上。

これからは1社で一生勤め続ける時代ではない。そう理解はしてはいても、いざ部下から「退職したい」と報告を受けるとなかなか冷静ではいられないもの。つい感情的になってしまったり、「あの時にああしていれば……」と後悔したり。そんな経験、誰しもあるのではないでしょうか?

実際にアルムナビが実施したアンケートでは、退職経験者の55.4%が「退職の意思を伝えてから実際に退職するまでの間に、不快な思いをしたことがある」と回答。そして、その理由の多くが「上司とのコミュニケーション」にあることが判明しました。後日行った退職経験者3人による覆面座談会では、「退職を切り出したら上司を怒らせてしまった」「「上司に『頭おかしくなったんじゃないか』とまで言われた」という人も……。

そこでこの連載では、「部下の退職」にまつわる上司の失敗談にフォーカス。「あの時どうすればよかったのか」を振り返り、「良い送り出し方」について探ります。

連載第1回目に登場するのは、大手IT企業の営業部で働く志田 宏光さん(仮名)。上司経験20年以上のベテランの彼が踏んでしまった地雷とは……?

 

部下がメール1本で電撃退職。部下思いの上司が踏んでしまった地雷

 

— 今日の取材テーマは「部下の退職に関する上司の失敗談」です。早速ですが、何か思い当たることはありますか?

「辞めます」というメール1本で、部下が突然退職してしまったことがありました。


— 上司としては精神的に相当つらいですね……。なぜそのようなことが起きてしまったのでしょう?

彼は私がマネジャーを務める営業部のメンバーでした。優秀ではあったものの、適性は営業ではないと思っていて。英語が堪能だったこともあり、語学を活かせるマーケティング部の方が合うのでは?と思い、「マーケティング部に興味はないか」という話を彼との面談の場でしたんです。

実際、マーケティング部からは「彼が欲しい」という要請もありましたし、私としては彼のキャリアを考えて打診したつもりだったのですが、どうやら地雷を踏んでしまったようで……。

私が思っていた以上に、彼は「営業部で頑張りたい」気持ちが強かったんです。まもなくして「退職します」のメールが届き、そのまま会社を辞めてしまいました。あれは今思い返しても、一番良くない結果になってしまったなぁと思います。


— 良かれと思った提案が、部下にとっては地雷だったわけですね。こういう食い違いがなぜ生じてしまったのだと思いますか?

彼との関係性が作れていなかったんだと思います。本人とそのメンターと一緒に飲みに行くなど、コミュニケーションは取っていたものの、私が当時40代前半で、彼は新卒1年目。彼にとって私は20歳も年上で、立場の差も大きいわけです。私自身はそうした違いをあまり意識していなかったのですが、想定していた以上に私の言葉は重く響いてしまったのかもしれません。

 

部下の退職は嫌なもの。それでも「気持ちよく送り出したい」と思える理由

 

— 部下との関係性が築けていなかったことが要因で、突然の退職につながってしまった、と。逆に言えば、関係性さえ築けていればこのようなことにはならなかったと思いますか?

そう思います。というのも、部下の退職に関する失敗らしい失敗って他にはないんですよ。きちんと送り出せた部下とは関係性ができていたので、パフォーマンスや今後のキャリアに関して部下の方から相談してくれていました。

そういった関係であれば、やりたいことが社内にあったとしても、社外にあったとしても、「今後どうしていきたいのか」を部下から話してくれるんですね。なので、基本的にはお互いの相談の上、円満に送り出すことができていたんだと思います。


— とはいえ、引き止めたくなりませんか? それだけの信頼関係が築けている部下ならなおさら「どうにか辞めないでほしい」と思ってしまいそうな……。

もちろん一緒に働いてきた部下が辞めるのは寂しいですし、何度経験しても退職に関する話を切り出されるのは嫌ですよ。でも、あくまで部下の人生なので……無理に引き止めるのは違うかなぁと。それに、外に出て挑戦したいという想いは応援してあげたい。本人の希望が社内でかなえられないのであれば、私にできることは気持ちよく送り出してあげることだけなのかなと思っています。そう心掛けているので、感情的になることもないですね。


— 志田さんが部下の気持ちを尊重できるのも、その手前で部下との関係性がきちんと築けているからなのかもしれないですね。そういう信頼関係はどのように築いているのでしょう?

2つあって、1つは1on1の時間を設けています。週に1度、それぞれのメンバーと1時間ほど話をしていますね。何もなければ30分程度で終わることもありますが、今は8人のメンバーを見ているので、単純計算で週に8時間は1on1に時間を割いている状況です。

飲みに行くのもいいですけど、お酒が入ると「思ってもいないことを言ってしまった」ということがお互いに起こりやすいじゃないですか。部下が「行きたい」と言ってくれれば別ですが、働き方も変わってきているので、基本的には日中にコミュニケーションを取るようにしています。全員と週に1度向き合うことは簡単ではありませんが、優先して時間を確保していますね。


— 1on1ではどのような話をするんですか?

現在の仕事のことはもちろん、先々のキャリアや、時にはプライベートの話をすることもあります。あとは、部下への指摘もこの場でするように気をつけています。他の社員がいるオープンな場で指摘をされるのは、誰しも嫌じゃないですか。


— 2つあるとおっしゃっていましたが、2つ目についてはいかがでしょう?

もう一つは、コミュニケーションの取り方に気をつけています。失敗談でお話しした部下の件があってから、歳が離れている20代の部下とのコミュニケーションに関しては、必要に応じて彼ら・彼女らと年齢の近い先輩社員を間に挟んでいます。私に直接話すよりは、間にワンクッションあった方が率直な話がしやすいでしょうから。そうやって若手の部下の状況を理解するように努めています。


— 自分が直接話をするか、先輩社員を挟むか、そこはどのように判断しているんですか?

自分で判断するのは難しいので、若い世代の社員と一緒にランチに行った時などに率直に相談しています。「いやいや、志田さんの立場から直接それを言われたらキツいですよ!」なんてフィードバックをくれて助かっていますね。

私も40代になって自覚するようになったのですが、若手社員から見ると、私はものすごく年長者なんですよね(笑)。自分としてはまだ未熟だと思っていても、若手社員からの見え方は違う。そこを自覚してコミュニケーションを取ることが重要なんだと思っています。
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    〜反省と教訓〜

    反省①部下との関係性ができていなかった
    →1on1など、普段のコミュニケーションから信頼関係を作っておくこと

    反省②自分の立場と年齢を踏まえて部下と接するべきだった
    →部下が本音を話しやすいシチュエーションを作ること。必要に応じて間に他の社員を挟むのも有効。

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文/写真 :築山 芙弓
編集   :天野 夏海