アルムナイへのサポートは、経済活性の「スパイス」になる

2017年08月15日

PROFILE

Sansan株式会社 代表取締役社長
寺田 親弘 

大学卒業後、三井物産に入社し、情報産業部門にて、コンピュータ機器の輸入、システム開発、Joint Venture立上等に従事した後、米国シリコンバレーに転勤となり、米国最先端ベンチャーの日本向けビジネス展開を担当。帰国後は、自らが持ち帰ったデータベースソフトウェアの輸入販売を、社内ベンチャーとして立ち上げる。その後、セキュリティ関連会社に出向し、経営企画・管理業務を担当。2007年5月に三井物産を退職し、4人の仲間と共にSansan株式会社を創業。2011年、The Entrepreneurs Awards Japan U.S. Ambassador’s Award(駐日米国大使賞)受賞。

アルムナビによるスペシャルインタビュー。第2回は、三井物産のアルムナイである、クラウド名刺管理のSansan株式会社、寺田親弘さんに、「元物産会」をはじめとした、自身のアルムナイ・ネットワーク、そして、自社での取り組みについて伺いました。

三井物産でビジネスという総合格闘技を学び、起業家精神を磨いた

――寺田さんが卒業された三井物産株式会社のアルムナイ・ネットワークについてお聞かせください。

私が三井物産およびそのアルムナイから受けている最大の恩恵は、「刺激」だと思っています。同期入社でなんと落語家に転じた立川志の春さんや、昨年上場された株式会社ユーザベース創業者の新野良介さん、若手起業家の方々をはじめとした三井物産とは違うフィールドを広げているアルムナイ、そして、在籍社員の皆さんの各界での活躍を見聞きするたび、「負けていられないな」と意を新たにしています。

三井物産は、社是に掲げる「挑戦と創造」がカルチャーとして浸透していることもあって、新しいことをやるのがあたりまえの環境でした。IT/ネット業界でこそ、「サービスを立ち上げる」というのは日常会話ですが、新旧あらゆる業界において、「事業づくり」を生業にしているというのは珍しいことで、そんな DNA がアルムナイにも息づいているのでしょう。

私自身、その「挑戦と創造」を一つの信条としているのですが、小学生の頃から抱いてきた起業家精神をさらに磨いてくれた会社だと思わずにはいられません。

当時を振り返ると、ビジネスに対する度胸も三井物産で自然と鍛えられたと思います。ビジネスがグローバルであることは日常茶飯事ですし、動かすお金の規模も桁違いに大きいわけです。次第に、これらを単なるビジネス上の変数として捉える感覚が培われました。

直近でも、当社は40億円を超える資金調達を実施しましたが、創業から物事が徐々にスケールしていく中で、ビジネスの規模が大きくなることに萎縮したり、数字に踊らされたりする感覚は少なかったように思います。

そう、総合商社とはよく言ったもので、三井物産はビジネスという総合格闘技のすべてのスキルが自然と身につく会社なんだと思います。ですから、三井物産の社員がビジネススクールへ通うと、イノベーション・マインドこそ刺激されるものの、学ぶ知識・ノウハウ自体は既知のもので、日常業務の延長線上だと感じることが多いのではないでしょうか。

こうした DNA のおかげか、三井物産のアルムナイには共通言語が存在していると思います。通常初対面の方と話すときは、いくらその人の言葉の領域を探りながら話したとしても距離を感じてしまうものですが、そのステップが不要なので話が早いのです。

実際、ユーザベースの新野さんとは在職中は面識がなかったのですが、紹介されて初めて会ったときから、共通言語ですいすい入っていける感覚があったことを覚えています。今は三井物産のアルムナイ・ネットワークである「元物産会」にも参加しています。

 

アルムナイだからこそ見える世界・情報を伝えていく役割を果たしたい

――そのアルムナイ・ネットワーク「元物産会」について、経緯や活動内容を教えてください。

「元物産会」立ち上げの動機は、Sansan の創業以来、三井物産を辞めて起業したり、ベンチャーに入ったりといったアルムナイとの接触が増える中で、「改めて『元リク(リクルートグループのアルムナイ)』はすごい、うらやましいなあ」と気付いたことが大きいです。

出身企業の DNA を共有しながら、卒業後の活躍をお互い励まし合い、助け合い、新しい事業を矢継ぎ早に生み出しているネットワーク。これは、自分たちアルムナイにとってはもちろん、ひいては三井物産にとっても、絶対あったほうがいいものだろうと思いました。

こうして、8年前に幹事団6名で立ち上げ、現在は300名規模にまで成長しました。前回の会合は80名弱集まり、「私の挑戦」と題して、エドテックやロジテックなどで起業したアルムナイたちにピッチ形式でプレゼンしてもらいました。アルムナイの中には投資家もいるので、良いシナジーが築けたと思います。

そんな非公式なアルムナイ・ネットワークである「元物産会」ですが、三井物産より「元物産会と何かコラボレーションしたい」とのリクエストをいただき、なんと社内でイベントを開催するに至りました。これはとてもエポックメイキングなことだと自負しています。また、三井物産の退職者に、元物産会を案内してもらえるようにもなりました。

思えば三井物産は、法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』を、私たちの創業間もない頃から導入してくれました。辞めた人間のサービスを、いの一番に使ってくれた、懐が深い企業としか言いようがありません。

そんな三井物産ですから、卒業し、Sansanを起業するにあたって、「借りっぱなしで辞めることになってしまうな」と感じずにはいられませんでした。「その借りを返すには何ができるだろう」と、頭を整理して出した結論は2つです。

まず、三井物産出身の起業家として、世の中に大きなインパクトを残す活躍をすること。私にとって、「三井物産のアルムナイ」という経歴は一生ものだと思っています。世の中の新しい当たり前となるサービスを生み出すことによって、三井物産の名前も世に広められたらと思います。

つづいて、三井物産の外にいるからこそ見える世界・情報を伝えていく役割を果たしたいということ。それができるのは、中も外も両方知っているアルムナイだけですから。

 

「アルムナイとの絆構築」の流れを顕在化させ、経済活性化の「スパイス」に

――寺田さんが現在経営されている、Sansan株式会社ではどのようにアルムナイを活用しようとお考えでしょうか?

まだ設立10年ということもあって、アルムナイの数はそれほど多くはありませんが、Sansanを卒業して起業したアルムナイはすでに5~6名にのぼります。アルムナイの起業時には「失敗したら戻ってきていいから思いっきりやれよ」と励ましつつ、プロダクトや設計のレヴューをするなど、できる限りの応援をしています。

また、ネットワークとまでは呼べないにしても、周年記念などの社内イベントには、アルムナイを招待しています。社内のムードとしても、卒業は決して断絶ではなく陸続きだととらえていますから。

アルムナイ・ネットワークをサポートしていくことは、会社の競争戦略の一環として取り組むべきだと思っています。感情論を抜きにして、その活用には十分なメリットがあると思います。

事実、社会構造の変化にともない、さらに雇用の流動性が高まっていく中で、アルムナイとの絆を見直すことは、ヒト・モノ・カネ・情報、すべての面で競争力につながり、ひいては日本企業の底上げになります。

逆にアルムナイ側から見ても、ネットワークの存在は、卒業後に自身の価値を高めるスピードが増す、つまり起業の成功確率が上がるわけですから、ありがたい存在と言えます。そして、ベンチャーを後押しする国策にもかなうわけです。

「元リク」は例外として、「元物産会」をはじめとしたアルムナイ・ネットワークの存在感はまだまだ弱いかもしれません。ですが、たった一つの事例が呼び水となり、潜っていた流れが一気に顕在化することがあります。それは、当社の「Sansan神山ラボ」がサテライト・オフィスの先駆けとなった経験からも実感していることです。

日本を代表するような企業たちが、アルムナイを「退職者」として関係を切るのではなく、その「絆」構築への意思表明をしていくことが、経済全体のダイナミズムにおいて、たしかな「スパイス」になりうると、私は信じています。

Sansan株式会社

2007年の創業より法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を開発・提供。「Sansan」は「名刺を企業の資産に変える」をコンセプトに、社内に眠る名刺をデジタル化し、人と人のつながりを情報として可視化・共有できるクラウド名刺管理サービス。2012年より名刺アプリ「Eight」を提供開始。ソーシャルの仕組みを取り入れ名刺をビジネスのつながりに変える新たなビジネスネットワークとして、登録ユーザーは150万人を超えている。

編集後記


アルムナビ編集長
勝又 啓太

寺田さんの三井物産へのまっすぐで熱い想い、そして、Sansanのミッション「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」の通り、アルムナイという出会いを、資産に変え、ゆくゆくは日本企業の競争力につなげていくという確固たる意志をひしひしと感じるインタビューでした。寺田さんが語る「競争戦略としてのアルムナイ活用」の視点は、決して利己的で閉じたなものではなく、利他的で開かれたもの。そんなスケールの大きさこそが、日本の働き方の変革には必要なのかもしれません。