アルムナイをサポートできる人材輩出企業こそが選ばれていく

2017年09月12日

PROFILE

ATOMICO Partner, Japan/未来スケープ 代表/
東京大学先端科学技術センター 客員研究員/産業技術大学院大学 客員教授
岩田 真一 

1972年10月10日生まれ、東京都八王子市出身。慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。ロータス(現日本IBM)にてソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。同社にてAS400版ドミノなどの開発に従事。その後マイクロソフト社のMSN事業部でネットワークPMを経て、01年に日本のテックスタートアップ、アリエル・ネットワーク社の設立に参加。P2Pアプリケーションの企画、設計、開発、プロダクトマネジメントに携わる。P2P技術についての執筆、講演などの啓蒙活動やコンサルティングも行う。

2005年8月に Skype Technologies S.A. 入社。同社 Developer Relations を経て、日本のジェネラルマネージャーに就任。2010年、スカイプジャパン株式会社設立、同社代表取締役に就任。日本のマーケットや戦略的パートナーシップの開拓に従事した。

2012年よりロンドンに拠点を置くベンチャーキャピタル ATOMICO に参加。同社パートナーに就任。バリュークリエーションチームに所属し、日本市場における投資先企業とパートナー企業との連携構築、投資先企業のビジネス機会の拡大を支援する。日本における投資先発掘(ソーシング)も担う。投資先のスマートニュース株式会社オブザーバー、Gengo株式会社社外取締役を歴任。2017、シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト育成プログラム Kauffman Fellows Program を修了し、Kauffman Fellow となる。

現在は東京を拠点に日本市場での活動に注力。2016年、日本の若い人たちに向けた「人生の地図」を作るプロジェクト「未来スケープ」を発足。エンジェルとして投資活動も行っている。

著書:「なるほどナットク!P2Pがわかる本」オーム社 (2005)

 

アルムナビによるスペシャルインタビュー。第三回は、スカイプジャパン株式会社 代表取締役を経て、現在はベンチャーキャピタリストとして、ATOMICO のパートナーを務める岩田真一さんに、「投資家としての視点」を中心としたアルムナイ・ネットワーク/アルムナイ・リレーションの捉え方について伺いました。

 アルムナイならではの信頼関係に基づくチームワークは企業価値を高める

――ベンチャーキャピタリストという立場から、起業家のアルムナイ・ネットワークをどう捉えていらっしゃいますか?

起業においてアルムナイ・ネットワークは組織作りとビジネスデベロップメントの2つの重要な役割を果たすと思います。組織作りの点にフォーカスしてお話しすると、一般的に「スタートアップには共同創業者がいたほうが良い」と、よく言われますよね。それは、経営者にのしかかるあらゆる負担が和らぐという意味と、その経営者・経営理念・ビジネスモデルなどに共感し、一緒にリスクを取って挑戦してくれる人がいると見られるので、バリュエーションも上がる傾向がありますから。とはいえ、それは経営者と共同創業者をはじめとしたチームがかみ合っていればの話。

そんな「失敗できないチームメンバー選び」において、割合として多く見られるのが「以前の同僚」、つまり「アルムナイ同士による起業」なんですね。有名どころでは、サイバーエージェントで、藤田晋さんと日高裕介さんはインテリジェンス同期入社のアルムナイ同士ですし、現在私がパートナーを務める Atomico の投資先である gengo の CEO と COO もソニーのアルムナイ同士です。

なんと言っても、その人が「働いているときの姿」を知っている、というのは大きいです。技術や知識はある程度面接で計れますが、プレッシャーのかかった状況で、どんな振る舞いをするかは、一緒に働いていなければわからないものです。そこでの信頼関係が、アルムナイにはすでに存在している、というアドバンテージがあると考えています。また、たとえ一緒に働いていなくても、「あの時期にあの部署でこういう仕事をしていたということは……」というかたちでも、アルムナイ同士というのは信頼関係が築きやすいですね。

――つづいて、岩田さん自身のキャリアについて伺います。スカイプジャパン代表取締役から、Skype 共同創業者であるニクラス・ゼンストローム氏率いる Atomico へ参画されたのも、やはり、アルムナイ同士、相互の信頼関係が大きかったのでしょうか?

はい。「同じ人に2度雇われる」というのは光栄なことだと思いました。これまでの仕事が評価されたということですから。私にとってもベンチャーキャピタリストへの転身というチャレンジでしたが、長年自分を見てきたニクラスが「向いている」と見込んで誘ってくれたということで、自信にもつながりました。

また、私以外にも Skype のアルムナイはたくさんいることもあって、良いチームワークが築けていたんだなあと、つくづく思います。これは単なる絆以上の、お互い認めているから誘うし、誘われるという、アルムナイ以外ではなかなか見れない、そんなネットワークなんじゃないかなと。

振り返れば、私のキャリアのターニングポイントは、アルムナイ・ネットワークあってこそかもしれません。大学卒業後、新卒でオリンパスに入社したのですが、いわゆる五月病でなじめなかったんです。民間企業から地方公務員に転職した経験を持つ親からは『お前にも公務員を勧めるよ』と言われていたので、この挫折は絶望的に思えました。

周囲に相談しても、「社会人とはそんなもの」「誰でも仕事は苦しい」「せめて3年続けろ」とみんな口を揃えて言うばかり。そんな中、会社のアルムナイではありませんが、大学の同級生(これもまたアルムナイ同士)でロータス(現日本IBM)に入社した友人だけは、「すごく楽しいよ」と。彼も同じサラリーマンなのになぜなのかと、そこで、ロータスという企業に興味を惹かれたんです。

外資系=実力主義というイメージから、漠然と恐い印象を抱いていました。でも、実力主義を恐れるってことは、雇い主に対して成果ではなく忠誠心で応える主義ってことでしょう。つまり、たとえ理不尽とも思える転勤や異動、文化も受け入れなくてはならないということ。万人にベストな環境はない中で、自分にはどちらが合っているかと言えば、ロータスだったんでしょうね。同じゲームでも、ロールプレイングゲームが得意な人もいれば、アクションゲームが得意な人もいる、世の中にはロールプレイングゲームだけじゃないんだよ、という話です。

こうしてロータスで、キャリアをリスタートすることになったのですが、そこで人事部が粋なはからいをしてくれたんです。もともと11月からの中途採用でしたが、「同期がいたほうがいいんじゃないか」と、まずはアルバイト扱いで、4月に新入社員に合流するという提案です。

これが功を奏して、私は数ヶ月分のアドバンテージのおかげで同期たちに対して引け目を感じずに済みましたし、同期は同期で私のアドバンテージをうまく活用してくれました。彼らとはそれぞれアルムナイとなった今でも仲が良く、外資系なのに日本的慣習を理解してくれた人事には感謝をしています。

一方、同時期に中途入社した方は、社内ネットワークが乏しく何かと困っていたようです。その点、私は各部門に散らばる同期ネットワークに何度も助けられました。私は日本の新卒採用を「一括ポテンシャルワンチャンス採用」だと、苦言を呈すことが多いのですが、この「同期の絆」は、このおかしなしくみの中での数少ない利点であり、アルムナイ・ネットーワークの中で一番強いコミュニティの一つなのかもしれません。

 

起業家予備軍は、優秀なパートナー候補を求め、人材輩出企業を目指す時代へ

――岩田さんと親交がある樋口泰行さんが、パナソニックに戻られたことが「出戻り人事」として大きな話題になっていますが、どう捉えていますか?

 

大企業において「出戻りは言語道断」なんて考えを持った人がいることを知らなかったので、むしろみんなが驚いていることに驚きました(笑)。普通に考えて、外で経験を積んだ人が、古巣に知識とネットワークを持ち帰ることってメリットしかないですよね。

実際、リクルートやソフトバンクでは出戻りは珍しくないわけです。そもそも企業は死に物狂いでがんばらなくてはならないって時に、「出戻りだからうんぬん」なんて悠長なこと言ってられないですよ。

一般論として、転職するしないに関わらず、外部人材市場での価値を把握して、自分のプロフェッションを考えるのが健全だと思っています。逆に、企業内での出世に力を注ぐあまり、意識が内向きになるのは、危険な兆候でしょう。極論かもしれませんが、私は、日本企業で「たたき上げ社長」は禁止のうえ、「社長は外部から招聘」というルールにしてしまえば、もっと外向きのエネルギーが生まれるんじゃないかと考えているくらいです。

「出戻り」がタブー視されているのは、「会社勤め=忠誠心による我慢大会」という同調圧力があるからなんでしょうね。一度乗ったレールから外れた瞬間、終わりだと考えてしまい、結果選択肢を狭めているのです。私自身、オリンパスを脱落してしまった人間ですから、すごく悩んだことを思い出します。

ただし、勘違いがないように言っておくと、オリンパスにはすごく迷惑をかけてしまったという申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。自分自身で入社を決めたのに、入ってすぐ辞めるなんて、人事にも、メンターの先輩にも、工場研修でお世話になった人たちにも合わす顔がないじゃないですか。採用から入社後の研修まで、多くの投資をしてもらったのに、何も返せずに辞めてしまったのですから。

オリンパスに対して恩返しはできないにしても、オリンパスのアルムナイとして恥ずかしくない活躍をしよう、心配をかけた親にもがんばっている姿を見せよう、そして、今後ドロップアウトする人たちにも別の選択肢があるということを示そう、そう意識を変えてやってきました。

――その経験が、個人がそれぞれ持つ人生の選択肢や可能性を「人生の地図」という形で見える化する『未来スケープ』の活動につながっていったのですね

そうですね。『未来スケープ』では、画一的な選択肢ではなく、人生に対する様々な選択肢を提示することを動機としてスタートしました。

その活動の一環で、たとえば終身雇用の考えが強い、ある大企業の方に、「社内での出世という喜びだけを糧にがんばるだけが人生じゃない」なんて話をすると、だいたい渋い顔をするんです。でも、「『未来スケープ』の活動は、あなたのお子様たちの人生のためのものなんです。もしも将来、あなたのお子様が道に迷ってしまうことがあったら、と考えてもらえませんか?」と尋ねると、「ハッ」とされるんですね。一度、客観的になれさえすれば、その重要性に気付いてくれるんです。

この『未来スケープ』の活動を通して、若い世代がそれぞれが自分自身の人生を選び取ることができるようになれば、私たちの子世代はもちろん、ひいては孫世代の日本はたくましくなっていくでしょう。

また、彼らの選択肢のひとつとして、究極的には「起業家」という道があることも示していきたいのです。中小企業庁が発表した資料によれば、日本は「起業(開業)率」自体は低いものの、「起業に興味を抱いた人が実際に起業する率」はアメリカの20%に対して19%とほとんど変わりません。また、起業に興味を抱く要因は、起業家または投資家との出会いですから、『未来スケープ』がきっかけづくりをすれば、政府が掲げる「起業率を5%から10%への引き上げ」も十分射程圏内だと思うのです。

そして冒頭で述べたように、スタートアップの成功には、アルムナイ・ネットワークの活用が近道なわけです。ですから起業家予備軍は、優秀なパートナー候補がいそうな人材輩出企業を目指す傾向が加速するでしょう。それは企業からしてみれば、アントレプレナーシップを持った人材を獲得するチャンスになるわけです。いずれにしても雇用の流動化の流れは止められないわけですから、能力がある人材が飛び出すのを止めるのではなく、むしろ適切なサポートを通じてアルムナイとして絆を築く、そんなプラットフォームのような企業が求められ、そして、勝っていくに違いありません。そう、すでにこのビジネスというゲームのルールは変わり始めているのです。

 

未来スケープhttp://www.mirai-scape.net/
社会人1000人インタビューやワークショップを通じて、日本の若い人たちに向けた啓発活動を行うイニシアティブ。これまでの日本の画一的キャリア像・幸福像は、現代の多様化する価値観や生き方にマッチしなくなってきている状況に警鐘を鳴らし、自ら選択する生き方のメリットとその道筋を提示している。

 

ATOMICOhttp://www.atomico.com/
欧州最大のベンチャーキャピタルのひとつ。Skype、Google出身者や起業家などで組織されたGrowth Accelerationチームによる投資先への成長支援機能を持つ。主にシリーズA以降、グローバルリーダーになりえるポテンシャルを持つテックスタートアップ企業に対し投資活動を行っている。

編集後記


アルムナビ編集長
勝又 啓太

岩田さんは、外資系企業を渡り歩いてきた方で、新卒で入社されたオリンパスについては語られることが少なかったと思うのですが、取材中、感謝の気持ちや恩返しの言葉をくり返し述べられていました。

退職した企業への、なかなか語られない想い。それは誰しも抱えているもの。個人と企業がつながり、そんな想いが語り合えるリレーションがある社会。岩田さんがおっしゃるように、「そんな働き方ができる環境にしたうえで、子世代・孫世代に引き継いでいかなくてはならない」と、改めて意を新たにしました。