オープンイノベーション時代の人材ネットワーク活用法 [後編]

2017年09月28日

PROFILE

株式会社people first 代表取締役
株式会社 ICMG 取締役/株式会社 IWNC 代表取締役会長長
八木 洋介 

1955年生まれ。1980年に京都大学 経済学部 卒業、1992年にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MS取得。1980年に日本鋼管株式会社(現JFEスチール株式会社)入社。1996年から1998年までNational Steel Corporationに出向(CEO補佐)。1999年に GE横河メディカルシステム株式会社入社。2000年から2004年までGE Medical Systems Asia、2005年から2008年までGE Money Asia、2009年から2012年までGE Japanにて責任者として人事などを担当。2002年より日本ゼネラル・エレクトリック株式会社取締役。2012年 株式会社住生活グループ (現 株式会社LIXILグループ )執行役副社長 人事・総務担当。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。2017年株式会社people firstを設立して、代表取締役(現任)。2017年株式会社ICMG取締役 及び 株式会社 IWNC 代表取締役会長(現任)。経済同友会幹事 人財活用委員会(2013年度)、新しい働き方委員会(2014年度)、雇用・労働市場委員会(2015、2016年度)、新産業革命と規制・法制改革委員会(2017年度)において副委員長を務める。現在、複数の東証一部上場企業などのアドバイザーを務めている。著書に「戦略人事のビジョン」。活発に講演活動を行い、雑誌などに記事多数。

アアルムナビによるスペシャルインタビュー。第4回は、日本鋼管(現 JFEスチール株式会社)を経て、GE 人事責任者、LIXIL 副社長を歴任するなど、日本の人事を代表するオピニオンリーダーである八木洋介さんに、オープンイノベーション時代における、アルムナイをはじめとした人材ネットワーク活用についてインタビューしました。前編につづく、後編です。

 プロ人材とは、在職中からアライアンスの視点で関係構築すべき時代

――視点を変えて、社員個人はこのような潮流の下、どのようにキャリアを形成すべきでしょうか?

社員個人は、プロフェッショナルを目指すべきです。課題が複雑化した時代には、プロ同士でないと発展的な会話が難しいです。プロの条件はいろいろあると思いますが、イノベーションの時代にはその分野の深い知見に加えて、発想の斬新さが求められています。そして、発想を豊かにするためには勉強が大切です。生まれながらのアイディアマンなんていませんから。

プロであれば、卒業した企業であろうが、他の企業であろうが、話がきます。そんな引く手あまたのプロを「裏切り者」呼ばわりする企業は損をするわけです。

一方で、企業は「本当のプロフェッショナルは独立していくもの」という認識というか、覚悟を持たなければなりません。だからこそアルムナイ・ネットワークは退職してから考えるものではなく、在籍中からアライアンスの視点で関係値を築くべき時代なのです。

近年話題になっている、複業についてですが、私はこれも個人がプロフェッショナルとして研ぎ澄まされていくプロセスの一つだと思っています。

というのも、「複業をやりたい」って言っている人は、決して「辞めたい」と言っているわけじゃないんですね。むしろ、「今の会社にいたい」というメッセージなわけです。そんな中、複業を禁止したら、その人材が辞めるだけ。それも、成長意欲が高い優秀な人材が辞めていきます

ずっと一つの企業にいてくれたほうが嬉しいのはわかりますが、個々人それぞれ優先事項があって、そうはいきません。だからこそ、逆に「複業などでより多くの異なる経験を積むことによって、その人材が3倍に成長したら、たとえ稼働が半分になっても、成果は1.5倍になる」くらいのチャンスだと捉えるのはいかがでしょうか。そうすれば、一つの仕事で成長して、効率的にもう一つの仕事に還元して……、といった良いスパイラルも期待できるはずです。

やはり外の世界を見る必要があるんです。アルムナイもそうですが、ずっと一社に滅私奉公している人材との違いは、生かすべき自分を持っていることに加え、「外を知っているか否か」なんです。もちろん組織内にも積極的に外に情報を取りに行っている人材はいますが、組織はまとまればまとまるほど、組織の常識が世間の常識とかけ離れていくものなので。

経済的理由からの複業・副業もあるとはいえ、複業にはバイタリティが求められるとともに、組織に刺激を与えてくれる存在なわけですから、むしろ「複業などを通じて外を見るのは成長機会だ」という歓迎ムードも生まれればいいですよね。滅私奉公を前提とした、感情的議論はもうやめにしましょう。

それでも人事としては、リテンションを考えなくてはならないわけですが、どうしても優秀な人材を囲い込みたければ、それは単純な話で、超魅力的な会社にすればいいんです。そうすれば、たとえ一時的に離れたとしても、またしばらくして、なんなら成長して戻ってきてくれますから。そのためにも、アルムナイとの絆を築いておくんです。

人事パーソンへのメッセージ

――最後に、こうしたアルムナイをはじめとした様々なリソースのネットワーク化に舵を切るにあたって、人事パーソンにアドバイスはありますか?

前提として、企業や経営陣を批判したり、攻撃したりするのではなく、自分の身の回りで正しいと思うことを日々積み重ねるべきだと私は考えます。自分が自社の発展や経営に貢献できる、「正しい」と思うことがあるのなら、身の回りでアウトプットすることから始めるんです。

実は私、若かりし頃、NKK時代に社長批判をするという暴挙に出てしまったのですが、そんなことしても何も変わらなかったのです。私はそこで「行動が伴わないとダメだ」と、頭を切り替え、「身の回りでできること」として、在庫削減を提案。幸い、チームが賛同してくれて、大きな成果につながったんです。

自分が正しいと信じることで結果を出せば、仕事の範囲も、動かせる組織も大きくなります。「やらせてもらえない」というフラストレーションを抱えるのではなく、今「できること」をやりましょう。行動を起こさなければ何も変わりません。

もし、それでも、何年もやり続けたにも関わらず、何ひとつ会社が変わらなければ、あなたの志が生きる別の場所を探しましょう。

私自身も、やれるだけやりながら模索した自身の人事観・経営観を、今度は、GEという外資系・最先端の企業で試してみようと思ったのが、NKKを飛び出したきっかけでした。「私は人事でCEOになる」という、不退転の決意を持って。

「うちの会社は人事畑からは役員になれないんです……」みたいなことをよく耳にします。これまた変な話で、あのポジションは出世コースみたいな文化は精神主義ですし、「○○畑」みたいな発想は、個別最適の罠に陥るだけです。

私は「だんご屋魂」って呼んでいるのですが、だんご屋さんに「粉を買ってくる人」「だんごをこねる人」「レジの人」がいるとして、「お客様が来なくて、だんごが売れない!」って時に、「レジが悪い!なんとかしろ」って責めて、はたしてだんごが売れるようになるのかという話です。

どうしたらもっとだんごが売れるようになるか、みんなで考えるべきだって、当然思うでしょう。でも、その当然のことを、できていない大企業は多くあります。自分のテリトリーのことしか考えていない人材を出世させてはいけません。

人事パーソンなら、人事の仕事をしながら、経営観を培っていくべきで、畑を問わず、ちゃんと経営観を育ててきた人材こそが、自然と出世していくのがまともな組織ですし、生き残りますよね。

さて、あなたは、社長を上司だと思っていますか?それとも、ライバルだと思っているでしょうか?経営観を持っている人であれば、上司や社長を「命令する人」ではなくライバルくらいに思っておいた方がいいです。そんなあなたが「オープンイノベーションだ、アルムナイだ」と思うならば、上司や社長にズバッと提案してみればいいのです。

今、あなたは自社の「人事」を、自信を持って海外に輸出できますか?もしここで「はい」と即答できないなら、本当のグローバル化は遠い道のりということ。そこでどう動くかが、あなたの腕の見せどころだと思います。

一方私も、「人事でCEO」に続く目標として、「日本発の、世界に通じる人事」を追求すべく、邁進していきます。

株式会社people first

企業の経営、人事全般に関わるコンサルテーションに加え、人材育成などの個別人事課題や経営会議の活性化などに関するアドバイスを業務としている。2017年設立。

編集後記


アルムナビ編集長
勝又 啓太

アルムナイ活用に限らず、どんなに頭では「正しい」と思っていることでも、これまでになかったしくみを実際に制度化し、運用していくのは、困難がつきまといます。そこでの障害一つひとつを、八木さんのおっしゃるような「勇気」を胸に、そして、オープンイノベーションの時代らしく「社外からの知見」を活用していくことで乗り越えていこう、そんな熱くも優しいエール。このくりかえし、積み重ねの先に、世界に誇る、新しい日本的人事の未来があるのでしょう。