再雇用を開始したb-monster代表・塚田姉妹の葛藤「長く働いてほしいけど、それは私たちのエゴでもある」

暗闇ボクシング・フィットネス『b-monster』が話題となり、2016年の創業から5年目にして国内8スタジオ、海外4スタジオを展開するb-monster株式会社。

同社は昨年から、アルムナイ(退職者、卒業生)に向けて、再雇用の案内をスタートしました。希望者はアルバイトないし社員として、再びb-monsterで働くことができます。

業界の給与水準や雇用の在り方に疑問を覚え、長く働いてもらうために正社員採用にこだわっていた同社が、なぜアルバイトを含む再雇用を開始したのか。

葛藤を感じながら、それでも代表の塚田美樹さん、眞琴さんがアルムナイとつながろうと考える真意に迫ります。

b-monster株式会社
代表取締役 塚田美樹さん(写真左)
大学生の頃からビジネスに興味を持ち、洋服のレンタルサービスやカメラマンと旅行者のマッチングサービスを手掛ける。2016年2月に妹・眞琴さんと行ったニューヨーク旅行をきっかけに起業し、暗闇ボクシングスタジオの運営を開始

代表取締役 塚田眞琴さん(写真右)
高校生の頃は、漫才師を目指していて、インターネットの掲示板で相方を探し「ハイスクールマンザイ」に出場。2016年、駒澤大学法学部を退学し、姉・美樹さんと共にb-monsterを起業

退職者約40人に案内を送り、10人を再雇用

—— 再雇用の案内をスタートしたと伺いました。いつから、なぜ始めたのでしょう?

美樹:案内を始めたのは2019年12月からです。b-monsterはエンターテイメント性を重視しているので、プログラムを受け持つパフォーマーには「楽しませる力」が必要。これは誰にでも備わっているものではなく、天性の素質だと思っています。

また、パフォーマーには新しいことをするのが好きな人や、海外志向の人が多くいます。そういうパフォーマーの性質を踏まえたときに、「挑戦しながらプログラムを持ちたい人が、社員以外のかたちで再びb-monsterで働く方法はないだろうか」と考えました。

—— どのようにアナウンスをしたのですか?

美樹:約40人に向けて、「アルバイト」と「社員としての再雇用」の双方の案内をメールで送りました。現時点では、次の3つの条件を満たした人を対象としています。

  • 在籍中に懲戒がなかった人
  • 在籍中のパフォーマンス評価で、一定以上のクオリティーレベルに達している人
  • 現在競合他社で働いていない人

競合他社で働いている人を対象から外しているのは兼業を避けたいという意図なので、「競合他社に転職後、その会社を辞めてb-monsterに戻りたい」という出戻りはもちろん歓迎です。

—— 反響はいかがでした?

美樹アルバイト7人、社員3人の合計10人が、再びb-monsterで働いてくれました。

眞琴:3人くらいは案内をしてすぐに戻ってきてくれましたね。

—— 40人中10人が再雇用につながるって、すごい割合ですね。反響は想定通りですか?

美樹:そうですね。パフォーマーは海外に行きたい、ダンサーになりたいなど、夢を追いかけるために退職する人が多いです。ですから、アルバイトで空き時間にプログラムを持てるのは、パフォーマーにとってメリットが大きいだろうと思っていました。

—— 社員として再び戻ってくる人には、どのような傾向がありますか?

美樹:夢に向かって、納得いくまでやり切った人が多いです。「新しい挑戦を応援しつつ、b-monsterに戻れる場所を用意する」というのは、パフォーマーの性質にも合っていると感じています。

パフォーマーのリクルートページでも「夢を目指している人を応援しています」という打ち出し方をしている

パフォーマーの最後のプログラムで「いつでも戻ってきて」を伝える

—— アルムナイの再雇用を考える上で、企業とアルムナイの良好な関係性は欠かせません。そのベースとなるのが「在籍中の関係性」と「退職時の対応」です。まず前者について、パフォーマーの方と良い関係を築く上で心がけていることはありますか?

眞琴:風通しの良さは大事にしています。起業当初は私たち二人で進めてしまい、他の人への共有が不足してしまっていたこともありましたが、今は自分たちの行動や発言の意味を説明するようにしています。社内コミュニケーションツールを導入して、社員全員に共有がしやすくなったのもプラスに働いていますね。

また、スタッフから上がってくる提案には全て目を通して、必ずフィードバックをしています。良い提案であれば、たとえ入社1カ月の方であっても採用していますし、実際にパフォーマー発案のイベントを実施したこともあります。

—— 「退職時の対応」についてはいかがでしょう?

眞琴:留学したいとか、夢を追いたいとか、そういった理由であれば「頑張ってください」と伝えています。同時に、「いつでも戻ってきてくださいね」というのも伝えています。

美樹:もちろん辞めてしまうことへの寂しさはありますが、b-monsterで新しい夢を見つけ、それに向けて頑張りたいのであれば、応援したいですね。

—— 在籍中からそういうメッセージングはしているんですか?

美樹:そうですね。7つのスピリットの中の1つに「大きな夢を語る」というものを掲げています。これは妹と意見が割れたところで、私自身は社内でb-monster以外の夢を語ることに対して疑問があったんです。

一方で妹は、「社内に限定せずに夢を語ってもらおう」という考え方。その上で、会社で叶えられる夢であれば一緒に叶える方法を検討し、それが難しい場合は新しい道に進むことを歓迎してもいいんじゃないか、と。

たしかに、大きな夢を抱いているからこそ、私たちが思いつかないようなアイデアを持ったスタッフもいるんですよね。なので、今では広く夢を語ってもらうことには私も賛成しています。

—— 退職時の面談はお二人が行っているのでしょうか?

眞琴:いえ、マネジャーが面談しています。だいたいスタッフは退職の意思を最初に各スタジオの店長に伝え、店長が面談した後、マネージャーに話が上がるという流れが多いですね。

パフォーマーは本社で研修後、国内に8つあるスタジオのいずれかに配属される。現在パフォーマーは70名、マネジャーは2名

眞琴:私自身は辞めることが決まっているパフォーマーのプログラムにはできるだけ参加しに行くようにしているので、そこで顔を合わせた時に「いつでも戻ってきてくださいね」と伝えています。留学であればいずれ帰国しますし、夢が叶った後など、もしかしたらまた一緒に働けるかもしれないので。

—— 退職時の対応は属人化しがちですけど、b-monsterではマネジャーの皆さんにやり方を共有しているのですか?

眞琴:共有しようと思ったというよりは、「こういう理由で辞めたいと言っていますけど、どうしますか?」とマネジャーが都度相談してくれていたので、そこで対応の仕方を伝えていくうちに浸透した感じです。

退職理由がネガティブな場合は改善案を提案したり、競合他社への転職の場合はb-monsterで本人の希望が叶えられないか模索したりすることもありますね。

—— パフォーマーの不満というのは、例えばどのようなことでしょう?

眞琴:営業時間上、朝早かったり夜遅かったりと不規則な生活になってしまうことや、体を酷使することが理由の場合が多いです。

美樹:「若いから今はできるけど……」と言われることがあります。パフォーマーの最年長はまだ30代半ばですが、この先長く働けるのかという不安はあると思います。

店長や本社勤務の提案はできるものの、パフォーマーの性格上、本人の希望に合わないパターンが多いですから、長期的なキャリアプランは考えていかなければと思っています。

「定年まで働いてほしい」これは自分たちの希望であり、エゴでもある

—— お二人としてはパフォーマーにできるだけ長く、年齢を重ねても続けてほしい?

眞琴:定年まで働いてほしい気持ちは、最初から強くあります。

この業界は業務委託やアルバイト採用が多く、「怪我したら終わり」になりがちです。悪い言い方をすると、使い捨てのようになってしまっている状況がありました。

それが私たちは嫌だったんです。せっかく入社してくれるんだったら、生涯雇用ができた方がいい。そんな考えの基、業界では珍しく全員正社員で採用してきた経緯があります。

—— なるほど。とはいえ、やっていく中で正社員じゃない方が合う人も出てきた。それが今回の再雇用をする中で見えてきた感じでしょうか?

眞琴:そうですね。定年まで働いてほしいというのは私たちの希望であり、ある意味エゴでもあるのかなと。みんなに幸せになってほしいと思って始めたことなので、他の関わり方の方が本人たちにとって幸せなのであれば、それは叶えていきたいです。

今でも、新しく入ったパフォーマーの最初のプログラムには必ず参加しているのだとか

—— もしも退職時に「夢を追いかけながらアルバイトで b-monsterの仕事を続ける」というオプションがあったら、再雇用の案内で戻ってきた7名は最初からそうしていたと思いますか?

美樹:そう思います。実際、最近退職した2名にはそういう働き方を提案して、退職と同時にアルバイトに切り替えました。

—— これから新しく入る人に、アルバイトで兼業するキャリアがあることを提示していくのでしょうか?

眞琴:そこは本当に模索中ですね。それこそリクルートのように「入社して数年で辞める前提の会社」というところまで振ってしまうことも考えましたが、それは違うよな、というせめぎ合いがあったり。けして辞めてほしいわけではないので、見せ方は悩ましいところです。

それに、アルムナイと社員の境目が曖昧になっていったときに社員でいることの利点がどこにあるのか、まだ見えていなくて。古臭いかもしれないですけど、パラレルワーカーとして仕事をする人が増えることで、会社の濃度が薄まっていくんじゃないかっていう懸念もあります。

美樹:スピード感を持っていろいろなことに挑戦できるのは、当社の強みです。ただ、それは全員が社員だからできたことだとも感じているので、そうじゃなくなったときにどうなのかは気にしています。緊急時に「来週全員でミーティングをする」といったことは、やっぱり社員だからやりやすかったと思いますしね。

—— そうなると、社員とアルバイトのアルムナイとで、求めるものも変わってくる?

美樹:そうですね。ブランディングや新しい取り組みの背景を全てアルバイトの人たちに伝えて、その上でプログラムを持ってもらうというのはなかなか難しいので。

例えば、パフォーマーの当日の気分でプログラムを組むことができる『ad liveプログラム』を先月から新しくスタートしたんですけど、それは社員しかできないといった差を付けることは考えられると思っています。

「今まで関わった人たちがかっこいいと思ってくれるのか」

——  改めて、これからパフォーマーとはどのような関係性を築いていきたいですか?

眞琴:起業当初から「月100万円稼ぐパフォーマーを生み出したい」と二人で話していましたが、これを現実にしていきたいです。「業界内では給料が良い」ではなく、他社と比べなくても満足してもらえるようにしなければいけない。

時間帯も今は全員一律で朝番・遅番の双方に入ってもらっていますけど、例えば優秀なパフォーマーは時間帯を選べるようにするなど、何かしら制度を増やしていって、長く働きたい人が働ける環境をつくっていきたいです。

とにかく人間関係やお金の問題で辞められてしまうのはやっぱり悲しいので、そういうことがないようにしていきたいですね。どの会社にも起こり得ることだと思うので、細かくヒアリングをして、クリアにし、改善していきたいです。

——  最後に、アルムナイの皆さんに伝えたいことは?

美樹:まず、戻ってきてくれたアルムナイの皆さんへは「素直に戻ってきてくれたことがうれしい、ありがとうございます」と伝えたいです。

新しいことをやる時やブランディングを考える時、「今まで関わった人たちがかっこいいと思ってくれるのか」は、私がいつも自分に問いかけていること。いつまでも「戻ってきたい」と思ってもらえる会社でいたいですね。

眞琴:私も、まずは戻ってくるという選択肢を選んでくれたことに感謝を伝えたいのと、一度辞めて、再び戻ってくるから見えることがきっとあると思っています。

外に出て、自分がやりたかったことをいろいろやって、その人自身の経験値は上がっているはず。それを会社に還元してくれるのはb-monsterにとってプラスだし、本人にとってもより良い働き方につながる。

そういう私たちとは違う視点を共有してもらって、もっと話し合いながら、より良い会社をつくっていけたらと思います。

美樹:この先、例えばホームページに卒業生一覧を作って、個人でパーソナルトレーニングをやっている卒業生に送客をしたり、フランチャイズ化したりといったやり方も考えられます。今はまだ懸念事項も多くて実行できていませんが、ありえない話ではないはず。

とにかく、辞めて関係性が終わってしまうのがもったいなくて。たとえb-monsterを辞めても、お互いにとって良い関係になれたらいいなというのは常に考えていますね。

取材・文/天野夏海 写真/ご本人提供