【現・元ベネッセ対談】アルムナイは会社、社員、そして社会も変える

社内の良い側面も、悪い側面も両方よく知っているアルムナイ。そのため、「社内の悪い側面を社外に広めてしまうのではないか」というネガティブな捉え方をされてしまうことも多々あります。

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そんな中、今回は、「アルムナイは社内の良い側面も悪い側面も知りながらも、社外から会社を応援してくれる存在」とポジティブに捉え、アルムナイと現職社員が一堂に会す交流会や勉強会を開催する、ベネッセの社内有志団体「One Benesse」発起人の佐藤徳紀氏と後藤照典氏をゲストにお迎えしました。

社内変革を目的に活動されているという「One Benesse」の立ち上げから、そこでアルムナイとつながるようになった経緯、アルムナイ・リレーションが生み出す価値について、伺いました。

PROFILE

株式会社ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所 情報企画室 研究員
佐藤 徳紀 

2012年ベネッセコーポレーションに入社。中学生向けの教材開発、初等中等領域の調査を担当後、現在の情報企画室 研究員に着任。博士(工学)。15年9月に社内有志団体「One Benesse」を立ち上げ。16年9月ONE JAPANに参加。17年社内で若手育成を目的とした企業内アカデミア「Benesse University」を提案し、スタート。

アイディール・リーダーズ株式会社COO/グロービスマネジメントスクール講師
後藤 照典 

大学卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションに入社。商品開発、販売・マーケティング、組織風土改革、人事を歴任。その後、「日本企業にパラダイムシフトを創る」という意図のもと、経営コンサルティングを行うアイディール・リーダーズ株式会社に入社。エグゼクティブコーチング、ビジョン策定、組織風土変革に携わる。コーチングやコミュニケーションの講座も開催している。

「ベネッセを変えたい」が生んだアルムナイとのつながり

————アルムナイと現職社員をつなぐ交流会やアルムナイを講師として招く勉強会の開催など、貴社のアルムナイ組織や活動は、アルムナイだけの集まりではなく、現職社員が積極的に参加するものになっていると伺いました。このようなかたちで盛り上げることができている経緯を教えてください。

佐藤:アルムナイ・現職社員が一体となった活動を行っているのは、実は、「One Benesse」という社内有志団体を立ち上げた背景とリンクする部分が多くあるのです。

ご存知の方も多いかと思いますが、2014年7月に、ベネッセの個人情報流出事件がありました。その影響もあって、先行きの不透明感が生まれたり、先輩・同期をはじめとした尊敬する方々が次々と転職していく姿を見て、ベネッセが目指しているもの・夢が社内で共有できていないだけでなく、ベネッセらしさがなくなっているのではないかと感じ、「ベネッセを辞めるか?ベネッセに染まるか?ベネッセを変えるか?」の3択に迫られました。

辞めることも考えましたが、自分自身がまだ何もしていない気がして―残ることを考えた上で何かに挑戦できないかと。

そんな中で、濱松誠さん(ONE JAPAN発起人)と出会い、彼の取り組みに感動するとともに、似たような考えを持ちながら大企業内でアクションをしていた方々(後にONE JAPANに共に参画した)の影響を受け、「流されるままに『会社(ベネッセ)』に染まってしまうのではなく、『お客様のためにとことん考え、語り合い、行動する』という、成長機会に満ちた『本来のベネッセ』の姿に変えることができるんじゃないか?」と確信し、2015年9月に、後藤ら4名とともにスタートしたのが社内有志団体「One Benesse」です。

そして「実際にどうやって会社を変えていけばいいのか?」について考えていたとき、ふと頭に浮かんだのが「退職した社員上司」、つまり「アルムナイの存在」でした

ベネッセのことをよく知っていることはもちろん、社外に出たからこそ、客観的な視点も持ち合わせているアルムナイ。彼らからなら「会社を変えうる客観的なヒントを得ることができるのではないか」と考えたのです。まず、これがアルムナイとつながろうと考えたきっかけの1つでした。

後藤:「One Benesse」を立ち上げた後、私は2017年3月末にベネッセを退職し、経営コンサルティングのアイディール・リーダーズに転職しました。退職の際、当時のある役員に「辞めるのはわかった。その代わりにアルムナイコミュニティを作ってくれないか?」と言われたのです。

当時は「辞める人間にアサインしないでくれよ(笑)」と思いましたが、「『One Benesse』の活動をアルムナイ側から支える」、それがこの体制が生まれたきっかけです。

その役員の方も、アルムナイネットワークが非常に盛んである外資系コンサルティング会社のアルムナイということもあり、「アルムナイには面白い人材や優秀な人材が多い」ということを肌で感じていたのだと思います。

また、私が退職する前の2016年2月をもって、もともとあったベネッセのOBOG会が活動休止してしまったことも、私に提案を持ち掛けられた理由ではないかと思っています。

私自身、転職にあたって現職社員やアルムナイをはじめとした様々な「縁」を切ってしまうのは非常にもったいないですし、つながることで「仕事でのコラボレーション」が実現したり、「お互いの刺激」になると考えていました。

こうして、約1年間の準備期間を経て、2017年12月に「アルムナイとつながる」ことを目的とした、第1回アルムナイ交流会開催に至りました。

「終身信頼」のもと成り立つアルムナイとの関係性

————過去3回開催されたアルムナイ交流会を経て、どのような手ごたえを感じていますか?

佐藤:第1回、第2回と試行錯誤を重ね、昨年2018年の11月に開催した第3回アルムナイ交流会では、現役社員とアルムナイ合わせ約50名が参加するほどの規模となりました。

アルムナイからすると、現職社員から社内の状況を把握でき、そこから「今のベネッセってこんな感じなんだ。何かできることはあるかな」と、今の自分の仕事やキャリアとリンクさせる機会となります。時には「また働いてみようかな」なんて伺い始めたりも(笑)

また、現職社員にとっても、「社外から見たベネッセがどう映っているのか?」など、客観的な意見をもらう貴重な機会となっています。

あとは単純に、ともに働いた仲間との再会を楽しみに参加されている方もいますね。

後藤:ここまで3回の交流会を経て生まれたアルムナイとのつながりはリード・ホフマンの謳った「アライアンス」の考え方が根底にあり、それは「終身信頼」関係のもと成り立っていると考えています。

アルムナイと現職社員の間にもそんな「終身信頼」の関係性があるからこそ、分け隔てなく情報交換を行うことができ、安心感を持ってともに仕事ができるかもしれないし、面白いことを一緒に仕掛けられるかもしれない。現職社員もアルムナイも交流会でそんな実感が喜びとなり、参加している方が多いようです。

また、アルムナイとお話するなかで、ベネッセの現状の課題を得るヒントを得られることもあります。

たとえば、他社に転職したアルムナイがイキイキと活躍されているとします。

現職社員がそのアルムナイに「今イキイキと活躍されている理由」について尋ねて、仮に「今の会社は、社員とマネージャーのコミュニケーションが密なんだよね」という答えを得たとします。そうすると「あ、そうか。そこを伸ばせばいいんだ」といった気づきを得ることにつながり、日々の業務に反映させていくことができます。

アルムナイから自社の課題へのソリューション、変革するためのヒントを得ることができるのです。

佐藤:また、最近、アルムナイ交流会の幹事メンバーの中で「理想的なアルムナイの姿」と評されている方がいらっしゃいます。

そのアルムナイはベネッセを退職し、現在はNPOの代表をしているのですが、交流会で「現在の仕事、およびクラウドファンディングにチャレンジしていること」に関するプレゼンテーションをしたところ、たくさんの共感を得て、一挙に活動に活きるつながりが増えたのです。

後藤:そうそう。さらに、そのクラウドファンディングに、アルムナイや現職社員の方も出資し成功を収めたんです。

私自身も、頑張っているアルムナイの方の話を聞くことで「私ももっと頑張ろう」と思える部分があるので、こうやって新たな刺激を得ることができることもいいなと思っています。

————「One Benesse」としての「アルムナイ」との関わり方について、今後何か検討されていることはありますか?

佐藤:現在、本業の傍ら兼務体制で「Benesse University」という、一般的に言う企業内アカデミアの設立に尽力しており、まだ具体的なアイデアはないものの、その中でアルムナイもうまく絡めていきたいと考えています。

また「One Benesse」では「社外で一番信頼できる存在=アルムナイ」という考えのもと、アルムナイの方を講師としてお招きし勉強会を開催しているので、そんな勉強会をはじめとした取り組みもさらに加速させたいです。

「One Benesse」では、会社の理念Benesse「よく生きる」につながる3つのアクション「つながる」「学ぶ」「とがる」を活動の柱と掲げているのですが、その一つ「とがる」の部分で、アルムナイと現職社員という同じ理念を共有した仲間だからこそ可能な「とがった」アウトプットを生みだしていきたいと考えています。

この大好きなコミュニティに染まり、そして理念を叶えていきたい。

————最後に、現職社員の佐藤様、アルムナイの後藤様、それぞれの立場・視点から、「アルムナイ」という存在について感じていることをお聞かせください。

佐藤現職社員の私からすると、「触れ合う中で、この会社に入って良かった」と再認識することができる存在、それが「アルムナイ」です。

ありがたいことに、ベネッセのアルムナイの方々は、辞めた後も応援してくれたり、会いたいって思ってくれたりすることをふまえて、改めてそう思うのです。

辞めた後もそんな風に思ってくれる人が多い会社って、素直に「良い会社」じゃないですか。

また、ベネッセ一社・同じ環境で長い期間仕事をしていると「自分の市場価値ってどうなのか?」「自分の学んだことはどれだけ社会で活きるのか?」など不安が絶えないこともあるのですが、同じような経験をしてベネッセを巣立ち、活躍するアルムナイと交流することで、「今、ベネッセで取り組んでいることは社外に出てもかなり役立つ」と実感できることも多いようです。

そういった環境・機会を客観的に見直す面からも、現職社員にとって、「この会社に入って良かった」と再認識させてくれる存在だと言えます。

後藤私にとって、アルムナイは「Home」です。

「よく生きる」という理念に共感してベネッセに入社し、一時期は同じ会社でともに理念の実現を目指したわけですが、今は社外という立場でも、やっぱり同じ理念に共感しているんです。

そういう意味では、辞めた感じがしないんですよね(笑)

この理念をベネッセで叶えようとしている人もいれば、社外で叶えようとしている人もいる、というわけです。同じ理念のもと、今もこうして集まっているのは、原点のような感じ、そんな「Home」のような存在なんですね。

そして、そんな「Home」を象徴する新たな取り組みが生まれようとしています。

ベネッセが瀬戸内国際芸術祭パートナーとして協賛している、三年に一度の芸術祭「瀬戸内国際芸術祭」が今年開催されます。この芸術祭に際し、誰よりベネッセのファンである我々アルムナイが主体となって「プロモーションイベントを開きたい!」というポジティブな声が現在挙がっているのです。こんな風に損得抜きで、同じ理念に向かって一丸となっていける、本当に大好きなコミュニティです。

佐藤さんは冒頭「ベネッセに染まるか?」と、「現状を良しとしない」意味で、「染まる」を使っていましたが、理念をはじめとした「ベネッセらしさ」に染まるのは悪いことじゃないんですよね。

今やアルムナイである私にとって、この「アルムナイ」と「ベネッセ」というコミュニティは、死ぬまで「染まっていたい」と心から思えます。

編集後記

アルムナイと「終身信頼」の関係を築き、コラボレーションしながら共に会社を変革しているベネッセ。辞めてからも会社のファンとして応援してくれるアルムナイや、ベネッセを巣立ち社外でイキイキ活躍するアルムナイの存在は、現社員のエンゲージメント向上にもつながっているといいます。

アルムナイと新しい関係を築くことは、会社だけでなく現社員にとってもポジティブなものなのだと感じさせられます。

また、「よく生きる」というベネッセの理念に共感して入社し、共通の理念のもと働いたアルムナイにとって、古巣は自身のアイデンティティの一部であり「HOME」。だからこそ、退職したことでアルムナイを警戒するのではなく、信頼し仲間として接することで、新しいコラボレーションを生むのだと感じます。(アルムナビ編集部・築山 芙弓)