約5000人が所属する「デロイト トーマツ アラムナイ」事務局&アルムナイ コアメンバーのアドバイス

アルムナイを会社の財産と捉え、辞めても縁を切らずにつながりを持ち続ける先進企業が増えています。

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デロイト トーマツ グループでは、昔から存在していたアルムナイ同士が繋がる複数のOG/OB会を統合し、『デロイト トーマツ アラムナイ』として公式化。コアとなって活動するアルムナイメンバーと共に活動を企画・運営し、現在はなんと約5,000人のアルムナイが所属するネットワークとなったそうです。

今回は、『デロイト トーマツ アラムナイ』運営事務局と、コアメンバーとして事務局と共に企画・運営を行うアルムナイにインタビュー。

『デロイト トーマツ アラムナイ』の活動や、コアメンバーとして活動するアルムナイの3名が辞めた後も古巣とのネットワークを大切にする理由など、会社・アルムナイ双方の視点から伺いました。

※本記事ではデロイト トーマツの正式表記に準じ、アルムナイの表記の一部を「アラムナイ」としています。

点在していたOG/OB会を結集。アルムナイ約5,000人のネットワークが誕生

烏野 仁さん(左):デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ グループ 執行役 改革担当 CTO
上坂 健司さん(右):デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 HRディビジョンリーダー 職務執行者 執行役員

——  『デロイト トーマツ アラムナイ』の活動内容について教えてください。

デロイト トーマツ・烏野さん(以下、烏野):主にイベントと、オンラインの2つの活動を行なっています。イベントには2種類あり、一つは「デロイト トーマツ未来塾」という、外部の著名な方をお招きして行う年2回の講演会・交流会です。

もう一つは、「ナナメのつながり」という情報交換を目的としたイベント。在籍中は上司や同期と縦横のつながりがあっても、退職するとそれ以上の広がりは得にくいんですよね。だからこそ、退職したあとにも「ナナメのつながり」が持てたら面白いのでは?というアルムナイの声から始まりました。こちらは年に3回開催しています。

オンラインでは、会員のアルムナイ専用のWebサイトを用意し、アルムナイ同志のプロフィールなどを見られる環境づくりに取り組んでいます。今後はサイト上で交流ができるような仕組みを整備していきたいですね。

この日の「ナナメのつながり」では、DTアラムナイのVOYAGE GROUP代表取締役社長兼CEOの宇佐美進典さんと、株式会社ラーニングエージェンシー代表取締役社長の眞﨑大輔さんによるパネルディスカッションが開催
DTアラムナイ同士で名刺交換

——『デロイト トーマツ アラムナイ』の活動は、いつから始まったのですか?

烏野:約3年前です。以前からOG/OB会はあったのですが、さまざまなグループがあってまとまっていませんでした。そこで会社も運営に入って統合し、公式な活動としたのが現在の『デロイト トーマツ アラムナイ』です。現在は若手から大先輩まで、幅広い年代のアルムナイ約5,000人が登録しています。

—— 公式化したことで、運営方法に変化はありましたか?

アルムナイ・佐野さん(以下、佐野):主に3つあって、1つ目は現役社員との接点ができたこと。2つ目は散在していたOG/OB会が統合されたことで、グループ会社やエリアなどの垣根がなくなり“オールデロイトトーマツ”となったこと。そして3つ目が、予算と事務局がついて運営がしやすくなったことです。

アルムナイ・若松さん(以下、若松):公式化する前から僕と佐野さん、花木さんは「東京トーマツ会」という監査法人の東京事務所のみで構成されるOG/OB会で「ナナメのつながり」の活動を担当していたんですけど、会場の予約や集客、会費の集計など、当時は自分たちや有志の運営で全部やっていたんです。そこを今は事務局が担ってくれていて、アルムナイの我々はイベントの企画や運営のサポートに専念し、アルムナイ同士やアルムナイと会社の架け橋になれるよう動いています。

佐野:会社が運営に入ってくれたことはもちろんですが、僕は現役社員とアルムナイが交流できるようになったのが大きいと思っています。デロイトトーマツで経験を積むことに、どれだけの価値があるのか。それを伝えられるのは私たちアルムナイですから。

佐野 哲哉さん(右):グローウィン・パートナーズ株式会社 代表取締役CEO/デロイト トーマツ グループ  1992年入社、2000年退職
若松 弘之さん(中):公認会計士 若松弘之 事務所 代表/株式会社ジェネリス 代表取締役/デロイト トーマツ グループ  1994年入社、2008年退職
花木 大悟さん(左):合同会社FPC/FPC会計事務所 代表/デロイト トーマツ グループ 2000年入社、2014年退職

アルムナイネットワークを活性化&拡大させる、コアメンバーの人選ポイント

—— 皆さんそれぞれお仕事がある中で、『デロイト トーマツ アラムナイ』の活動を主導するのは大変なことだと思います。若松さん、佐野さん、花木さんがコアメンバーとして活動することになった経緯を教えていただけますか?

若松:起点となったのは私です。2008年にOG/OB会に参加をしたところ、定年退職者が多く、当時30代半ばだった私はかなり浮いた存在で。「もっと若い人にも参加してほしい」と当時のOG/OB会の会長へ言ったところ、「じゃあやってくれ」と(笑)

そこで、現役時代にお世話になった佐野さんなら、人脈もあるしお手伝いいただけるかもしれないと連絡しました。

佐野:若松さんからお声がけいただいて、「恩返しができるなら」と快諾しました。というのも前職のITベンチャー企業では、創業メンバーとしてCFOを務めていたんですが、当時は毎日デロイトトーマツで仕事を教わったことに感謝していました。

「技術と営業以外全部よろしく」みたいな状況で右も左も分からなかったけれど、デロイトトーマツで監査をやっていた経験が本当に役立ちました。会社の仕組みや親子会社の関係、内部統制など、知らないうちに得ていた自分の知識量に外に出たことで気がついたんです。

また、デロイトトーマツで得た「信頼」と「人脈」にも、何度も助けられました。デロイトトーマツの看板はなくなっても、「OBの会計士」ということで信頼していただきやすい。現在の会社を起業して15年経ちますが、今でもアルムナイの方々からいろいろなことを教わったり、人を紹介いただいたり、本当に良くしていただいています。こういった宝物のような価値に、自分が辞めて外に出たことで気付いたんです。

——会社を辞めると会社のネームバリューや信頼は使えなくなると言われることが多いですが、佐野さんの場合は離れてもなおそこに助けられた経験をたくさんしているんですね。花木さんはどのような経緯だったのでしょうか?

アルムナイ・花木さん(以下、花木):私は2014年に退職をする直前、飲みの席で若松さんと知り合いました。その後に電話で、「OG/OB会の幹事やらない?」と軽い感じで誘われたのがきっかけですね。

私は若松さん、佐野さんと同じ監査法人の所属ではあるものの部署は別で、その部署出身者同士のつながりは強いのですが、法人全体のOG/OB会への参加率は低かったんです。私は比較的上と下、双方の世代とつながりがあったので、『デロイト トーマツアラムナイ』のネットワークの幅を広げられればと思い、幹事として加わりました。

—— 退職しても会社のために何かしたいと思ったのは、なぜなのでしょう?

花木:佐野さんと同じで、私もデロイトトーマツのことがすごく好きなんですよ。自分の送別会で、「デロイトトーマツのような組織を創ります!」と言って号泣したくらい(笑)

現役社員からキャリアの悩みを打ち明けられることもあるのですが、「ちゃんと頑張れば外で通用する経験が得られる会社だから、簡単に辞めるべきではない」と伝えることも多いです。

DTアラムナイ 花木さん

—— 皆さん共通して古巣への感謝や、恩返しをしたいという想いを持っているのですね。

若松:そうですね。活動を推進するコアメンバーの人選はすごく大事だと思います。想いがあるのは大前提ですが、やはりいろいろな人とつながりがある人の方が広がりがあるので、長く在籍していた人が適任です。

プラス、上の世代からは可愛がられ、下の世代からは兄貴分的な感じで慕われているような人望のある人が理想。実は、花木さんにお声がけする前にリサーチしたんですよ(笑)。そうしたら「花木さんは人望も突破力もある」ということがわかったので、お声がけしました。

花木:初めて聞きました(笑)

佐野:人望のない人や現役時代に全く活躍していなかった人が「OG/OB会をやろう」と言っても、正直アルムナイも現役社員もあまり関わりたくないですよね。

だからこそ、現役社員のロールモデルになるような人がコアメンバーとして活動することによって、よりコミュニティが活性化しやすくなるのだと思います。自分がそうだとは思いませんが……(笑)

出戻り、業務連携、出資。多様な関係性を築くためにも、アルムナイが「関わりたい」と思える会社でありたい

—— アルムナイの熱い想いを聞いて、アラムナイ事務局の烏野さん、上坂さんはどう感じましたか? 

烏野:恥ずかしくなっちゃうくらい熱い想いをアルムナイの方々が持ってくれていることを、現役社員にもっと伝えていきたいです。外に出て気が付いたことは、アルムナイにしか話せないですから。あとは、退職して数年経った今でも一緒に活動してくれていることが素直にうれしいですね。

デロイト トーマツ・上坂さん(以下、上坂):これからも「デロイトにいたから今がある」とアルムナイが思ってくれる会社でありたいです。そしてアルムナイの活躍を見て、現役社員がデロイト トーマツで働いていることを誇りに思ってくれるような会社でいたいですね。

—— 事務局側として、アルムナイと交流することによって何を期待していますか?

烏野:さまざまなつながり方をしていきたいです。大きな話になりますが、日本の経済にとって人材の流動性を高めるのは必須だと思っています。

外に出てチャレンジしてまた戻ってくる、外部パートナーとしてプロジェクト単位で一緒に仕事をする。多様な関係性をさらに創っていきたいですね。そのためにも、アルムナイが何かの形で関わりたいと思える会社でいたいと思っています。

佐野:デロイトのそんなスタンスに、私自身救われていたかもしれません。退職する時、心のどこかで「失敗したとしても、デロイトが助けくれるんじゃないか」という安心感があったんですよね。外で数年チャレンジして戻ったら、また違う形で経験を活かせるだろうとも思いましたし。

だからこそ、私は今会社を経営していますが、退職する社員には「外でチャレンジして、また戻ってきていいよ」と言っていますし、自社の採用サイトにも活躍しているアルムナイのインタビュー記事を載せています。

上坂:たしかに、去る者を無理に止めようとする文化はないですね。実際に戻ってくる人も多いですよ。

若松:私たちアルムナイ側の3人に共通して言えるのは、円満退職だったということ。喧嘩別れしたわけじゃなく、むしろ「新天地で頑張れ」と前向きに送り出していただいたんです。だからコアメンバーになってくれと言われた時に、全く嫌な気はしなかったんですよ。「大変そうだな」とは思いましたけど(笑)。その意味で退職の仕方は、その後のご縁という意味でも、とても重要だと感じています。

DTアラムナイ 若松さん(左)、佐野さん(中)、DTアラムナイ事務局 烏野さん(右)

—— すごく素敵な関係だなと思います。一方で、『デロイト トーマツ アラムナイ』に関して課題に感じていることはありますか?

若松:交流や、ネットワークを広げるという第一段階のフェーズは果たしつつあります。今後はアルムナイ同士が新しいビジネスを始めたり、仕事を依頼し合ったり、そういう関係を生み出すような、もう一歩先のフェーズに進んでいきたいです。

わっと集まる交流会だけでなく、もっとじっくり交流をして、深いつながりを創れる場を提供したい。そうすることで、さらに強いアルムナイネットワークを作れるんじゃないかと思っています。

—— 事務局のお二人はいかがでしょうか?

烏野:私たちも同じで、ビジネスを成長・発展させていく一貫としての取り組みを仕掛けていきたい。事務局の私たちの方から、そういった場を創り、提供していくことが大切かなと思っています。

上坂:あとは、統合したとはいえ、やはり活動が活発なのは東京になってしまっているんです。地区では年に1〜2回懇親会等を開催する程度なので、全国ベースでもっと発展させていきたいですね。

—— アルムナイとの関係を構築したいと考える会社が増えています。これから取り組もうとしている会社にアドバイスをいただけますか?

花木:「継続すること」ではないでしょうか。

若松:そうですね。特に最初のうちは思うようにいかず、折れそうになることもあるんですけど、積極的に動いてくれるアルムナイと協力して、試行錯誤しながら続けることに意味があるんだと思います。

烏野:雇用の流動性が高まってきているからこそ、日本企業もアルムナイと関係を構築するべきだと思っています。今はもう、一つの組織だけに所属するという時代ではないですよね。

若松:そうですね。特に20〜30代の若手は1社に一生涯帰属しようという意識がなく、サードプレイス的に、いろいろなコミュニティにゆるく所属していた方がキャリアにとってプラスだという考え方になってきていると思います。だからこそ、辞めたらそこで繋がりを切るという考え方から、辞めてもゆるく繋がっていくことが大切だと思います。

DTアラムナイ事務局 上坂さん、烏野さん、DTアラムナイ 佐野さん、若松さん、花木さん(左から)

取材・編集・写真/天野 夏海 文・写真/築山 芙弓