目指すは「終身信頼」の関係。元電通社員の声から実現した“電通公式”のアルムナイネットワークが生み出す価値とは

2019年10月31日より、アルムナイ(退職者)との関係構築に特化したクラウドシステム『Official-Alumni.com』を導入し、アルムナイとのネットワーク創りを公式に開始した電通。

もともと電通を卒業したアルムナイ同士がつながる非公式のネットワーク「Ex電通人」は2014年頃から存在していたものの、複数のアルムナイから「卒業生同士だけでなく、現役の電通社員ともつながりたい」という声があがったことから公式化が決定したそう。

今回は、電通のアルムナイネットワークのコミュニティマネージャーを務める電通アルムナイの酒井章さんと、現在人事としてアルムナイネットワーク創りに取り組む電通の大門孝行さんにインタビュー。

「電通とつながりたい」とアルムナイ側から声があがったのはなぜなのか?
アルムナイと電通が公式につながることによる双方のメリットは何なのか?
今後、アルムナイと電通はどのような関係を築いていきたいのか?

アルムナイと会社の双方の視点から、お二人にお話を伺いました。

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株式会社クリエイティブ・ジャーニー 代表/電通アルムナイ・ネットワーク マネージャー
酒井  章 さん(電通アルムナイ )
1984年㈱電通に入社。コピーライター、営業(自動車担当)、マーケティングプロモーション部門を経て2004年よりシンガポール(アジア統括オフィス)に駐在。2011年帰任後はグローバル部門を経て人事局、キャリア・デザイン局でキャリア開発施策を担当。2019年3月定年退職後、4月に起業。

株式会社電通 キャリア・デザイン局 キャリア戦略部 シニア・ディレクター
大門  孝行 
さん
1992年㈱長銀総研に入社し経営/組織人事コンサルティングに従事。2001年㈱電通に入社後は、戦略プランナー、メディアプランナー、アカウントプロデューサー、プラニングディテクターを経て、2019年1月よりキャリア・デザイン局キャリア戦略部シニアディレクターとしてHR領域に従事。

一部の退職者のみが所属する非公式ネットワークから、電通の公式ネットワークへ。その理由は?

  もともと電通出身者による非公式のアルムナイネットワークがあったとのことですが、それはどのようなネットワークだったのでしょうか?

酒井:「Ex電通人」という、電通出身者によるコミュニティが2014年頃から存在していました。「Ex」というのは「元・前」の意味です。

電通時代の所属部署や退職後のキャリアを問わず、150名以上のメンバーが「電通卒業後も、それぞれの個性を生かして活躍しているアルムナイ同士でつながる」ことを目的に、有志のメンバーで活動していました。

中心となっていたのは、ベンチャーやスタートアップ企業へ転職した人や起業した人で、自主的に電通を卒業したアルムナイです。その他に、マーケティングやクリエイティブの分野で活躍するアルムナイも多数いらっしゃいます。Ex電通人メンバーの皆さんは、年に1回くらいの頻度でオフ会もやっていらっしゃったそうです。

電通はEx電通人を認識していたのでしょうか?

大門:いえ、していないです。アルムナイと現役の電通社員が仕事上で個別に関わっていることはありましたが、Ex電通人自体は知る人ぞ知るネットワーク。ほとんどの人は知らなかったのではないかと思います。

そんなEx電通人が公式化されたのは、どういった経緯だったのでしょう?

酒井:私がまだ社員として電通の人事局にいた2015年に、Ex電通人のアルムナイ数名から内々に公式化のお声がけをいただいたことがきっかけでした。

アルムナイの中には、退職後も電通とビジネス上での付き合いがある人も多くいるのですが、「会社自体をアルムナイネットワークに巻き込むことで、もっとビジネスでのコラボレーションをしていきたい」という声が上がったことで、電通としてもアルムナイネットワークの公式化について考え始めました。

2016年には試験的に、小規模なプレアルムナイパーティも行いました。本格的に制度化する前に一度こういった集まりを行なったこともあり、制度化までの流れはスムーズに進んだように思います。

その後、2019年3月に私が電通を卒業し、電通側のアルムナイに関するプロジェクトはキャリア・デザイン局で一緒に取り組んでくれていた大門さん達に引き継ぎました。在籍時からアルムナイネットワークづくりに携わっていたこともあり、卒業後もアルムナイネットワーク側のマネージャーを勤めています。

株式会社クリエイティブ・ジャーニー 代表 (電通アルムナイ)の酒井 章さん

— 酒井さんは2019年に電通を卒業し、現在はアルムナイの立場ですが、電通の人事としてEx電通人の公式化の話を聞いた時はどのように思いましたか?

酒井:2014年頃から社員のキャリア形成に関するプロジェクトを担当していたこともあり、「会社と個人の関係性は今後変わっていく」という感覚があったので、公式化の話は「ぜひ」という感じで抵抗はありませんでした。

これまでは入社した会社に定年まで勤め上げることが一般的だったのが、自らの意志で卒業という道を選ぶ人が増えてくる。そんな変化がある中で、アルムナイともネットワークを持ち続けることが大切になるのではないかと考えていました。

LinkedIn創業者のリード・ホフマンによる著書「ALLIANCE」の中には、「終身雇用」ではなく「終身信頼関係」ということが書いてあります。日本社会ではまだまだ退職者とつながるのは一般的ではないかもしれませんが、「ALLIANCE」の内容に勇気付けられながら、公式化に向けて動いていました。

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アルムナイは電通の文化と外の世界を知る「複眼の視点」を持つ存在

電通のアルムナイの方たちは、古巣である電通とつながりを持つことに何を求めているのでしょうか?

大門:公式化の話を少しずつ進めていく中で、2017年にアルムナイが何を求めているのかを知るためのアンケートを行いました。結果としては、「ビジネスとしてつながりたい」という人もいれば「仕事で関わらなくてもいいから、ゆるくつながっていたい」という声もあり、同じ電通のアルムナイとは言ってもニーズはさまざまだったんです。

とはいえ、当社としてはアルムナイ全員がフェアに価値を感じられるようなネットワークを作りたい。そこで電通アルムナイに共通するニーズは何かを探っていくと「プラットフォーム」がキーワードとして見えてきましたので、公式化にあたりアルムナイとつながるためのクラウド型のシステム「Official-Alumni.com」を活用することを決めました。

株式会社電通 キャリア・デザイン局キャリア戦略部シニアディレクター 大門 孝行 氏

酒井:ビジネスとして電通と連携したいというニーズだけでなく、世の中がどんどん変化していく中で、アルムナイとして純粋に古巣を応援したいというアルムナイの声も多いです。私も今は電通アルムナイになりましたが、そういう気持ちは強くあります。

  電通としては、アルムナイとつながることにどのような価値があると考えていますか?

大門:多様な場で活躍している人たちと、「元電通」という共通点があるからこそ気兼ねなく情報交換ができることは価値だと感じます。また、電通アルムナイが外で活躍してくれていること自体が会社としての資産になりうると考えています。

まだまだ接点がないアルムナイも多くいると思いますので、お互いに信頼関係の上に成り立つアルムナイとのネットワークを広げていければと思っています。

酒井:アルムナイは、電通の企業文化を知りながら、外の世界も知っている。つまり「複眼の視点」を持っている人たちです。私は現在アルムナイの立場ですが、電通の人事として関わっていた頃は、そういった人たちとつながり、情報交換ができることは電通にとって非常に大きな価値だと考え取り組んでいました。

大門:電通という会社は、社員もアルムナイも共通して「自分の好きなこと・やりたいことをやりたい」という人達が結構多いと思うんです(笑)。社員の立場のときも、電通の外に出てからも、自分の好きなこと・やりたいことをやっている自由度の高い人がたくさんいる。たとえ会社を離れたとしてもコアとなる価値観や考え方が変わらない限り、ビジネスでもプライベートでもつながりやすいだろうと思いますね。

酒井:電通の個性を大切にする文化は名刺にも現れていて、裏面のカラーを100色から選ぶことができるのですが、人材の多様性を象徴しています。このように、個性や多様性を大切にする文化があるからこそ、アルムナイも社員もお互いにつながることにオープンなのかもしれません。

「終身信頼」の関係を築き、アルムナイと会社、アルムナイ同士が
つながりを持ち続ける価値

— 公式化し、アルムナイからの反響はいかがでしょうか?

大門:公式化してまだ間もないのですが、システムにはすでに150名以上のアルムナイが登録しています。年齢は20代から70代まで多岐に渡っていることから、幅広い層がアルムナイ同士のつながりはもちろん、会社とのつながりを持つことを待望していたのだなと感じています。

アルムナイの方々の現在の活躍分野も本当に多様で、会社勤めとはいえ業種も会社規模もさまざまですし、起業したり学校の校長や大学教授になったりした人もいます。広告やクリエイティブとは関係のない分野にいるアルムナイも多くいるからこそ、異業種間でのネットワーキングができるのではと期待しています。

実際にシステム上でそれぞれの「今」が可視化されたことで、新たなコミュニケーションも生まれ始めています。電通で働いていた頃に関わりのなかったアルムナイ同士や、そもそも在籍期間がかぶっていないアルムナイの間にもつながりが生まれるといいですね。システムへの登録の案内をし始めたばかりですので、今後が楽しみです。

*こちらは、株式会社電通に在籍していた方専用のネットワークです。

—この先はどのような取り組みを行なっていくのでしょうか?

大門:いくつか考えているのですが、電通社員、ないしはアルムナイとビジネス上の関わりを持ちたいという声が多く上がっているので、まずはそれに応える場を提供していきたいです。具体的には事業提携を生み出すことを目的としたピッチイベントの開催などがアイデアとしては出ています。

また、公式化して半年後くらいのタイミングで、アルムナイ総会を開催したいと考えています。数百人規模でアルムナイが集合する場になるでしょうから、今から楽しみですね。

こういったアルムナイ向けのイベントや取り組みの詳細は、随時システムを通じて告知していきたいと思っています。電通社員とアルムナイ、もしくはアルムナイ同士がお互いの近況を発信したり情報交換をし合ったりと、自由に交流できるプラットフォームですので、アルムナイに向けたクローズドな情報も発信していきたいですね。

アルムナイみんなに価値を感じてもらえるようなコミュニティにしていきたいので、アルムナイの皆さんからも要望や意見をどんどん送ってもらえればうれしいです。

—— 今後、 アルムナイと電通でどのような関係を築いていきたいですか?

大門:アルムナイネットワークを公式化した理由の一つは、電通アルムナイ同士、もしくは電通アルムナイと電通によるビジネス連携を促すことです。

電通がアルムナイサイドへ業務の発注をしたり、逆にアルムナイが電通へ業務の発注をしたりする他、有期雇用といった形で一緒に仕事をするなど、さまざまな形で関わりをもっていきたいですね。共同開発や投資をし合う関係というのも一つの方向ではと思っています。

酒井:まさにリード・ホフマンの「ALLIANCE」にあるような「終身信頼」の関係を築いていきたいと考えています。電通の社員ではなくなったとしても、縁や信頼関係を維持し、お互いにとって価値のある関係でい続けたいですね。

*こちらは、株式会社電通に在籍していた方専用のネットワークです。

>>電通アルムナイと電通社員に聞く、双方がビジネスでつながる意義とは?

取材・文:築山 芙弓 編集:天野 夏海 撮影:根岸 泰宏