「アルムナイ(alumni)」という言葉をご存知ですか? アルムナイとは、学校の卒業生、同窓生、校友を意味する言葉ですが、実は、企業・組織の退職者・離職者を意味する言葉でもあります。

企業・組織とアルムナイを継続的につなぎ、Win-Winの関係を築く、新しい人材活用やマネジメントの考え方である、アルムナイ・リレーションに注目が集まっているようです。

多様化する働き方

「人生100年時代を迎え、人々のワークスタイル、ライフスタイルは大きく変わり始めました。働き方をみても、転職は当たり前になり、パラレルワーク(兼業)やフリーランスなど、特定の企業に属さず、複数の企業と仕事をする方も増えています。

このように、ある企業で経験を積み、退職後、別の企業、または個人でキャリアを磨く働き方が、今後も増えていくと思われます」

  • ハッカズーク アルムナイ・リレーションシップ・パートーナー 大場智代美さん

こう語るのは、ハッカズーク アルムナイ・リレーションシップ・パートーナー 大場智代美さん。

同社はアルムナイ・リレーションに関連したさまざまなサービスを提案・提供しています。

断ち切るのではなく、つながる

従来の日本企業にとって、退職した社員は会社を去った者であり、彼らと会社との関係性は、退社と同時に断ち切れてしまうことが一般的でした。

「人材の流動性が高いアメリカのコンサルティング企業やテック系企業では、アルムナイとの関係を大切にしています。

つながり続ける仕組みを積極的に整え、自社へのエンゲージメントを高めた結果、『協業』『再雇用』『アンバサダーとして活躍』など、企業としての長期的な競争力を高めているのです」

企業は慢性的な人材不足に悩んでおり、優秀な人材を常に求めています。そこで、自社の企業価値・ビジネスを知り尽くしている元社員と、様々な形で関係を保ち続けるそうです。

イノベーションが生まれる可能性

「日本企業は、アルムナイとの関係性を断ち切ってきましたが、それは、とてももったいないこと。企業がイノベーションを起こすためには、社内の知見だけでは限界があります。アルムナイとのつながりから、新しいイノベーションが生まれる可能性も否定できません」

退職した社員には、さまざまな人がいます。その中には、所属した会社の企業価値やビジネスを熟知し、高度なスキルとナレッジを持つ人材も含まれています。

アルムナイ・リレーションは、人材の視点だけでなく、自社のセールスやマーケティングにおいても、活かすことができるそうです。

なお、日本での活用例として、「再雇用や退職者からの推薦人材の採用」「ナレッジシェアやメンター」「パートナーとしての協業」「自社のアンバサダー」「アルムナイ経由のビジネス受注」などがあるといいます。

Win-Winの関係を築くこと

退職した社員とつながり続けることは、企業側にメリットがあるとはいえ、注意することもあります。それは企業だけでなく、退職した社員にもメリットがある Win-Winの関係を築いていくことだそうです。

「一人ひとりのワークスタイル、家庭環境、辞めた理由などは千差万別です。企業は、それらの状況を理解し、なぜ、あなたとつながりたいのか、つながることで、どんな関係価値を生み出したいのかをしっかり伝え、アルムナイがポジティブな気持ちで参加できるチャンスを投げかけることが大切だと考えています」

  • 会社と個人の信頼関係が大事だと話す大場さん

また、辞めた社員側も過去のイメージで企業を評価せず、呼びかけを公平に判断し、自分の可能性を活かすチャンスの一つにしてほしいといいます。

メリットと可能性

「アルムナイ・リレーションの構築は、企業イメージの向上にも貢献すると私たちは考えています。『退職者とつながり、ビジネスやコミュニケーションを通じて、お互いにメリットがある関係を築いていこう』という姿勢は『社員だけでなくOB/OGまで大切にする会社』という企業イメージに直結します。

また、新卒・中途採用においても、アルムナイ・リレーションの活用は、オープンかつ先進的な視点を持つ企業イメージを採用ターゲットに与えることでしょう」

こうした取り組みは、大手企業はもちろん、中小企業においても効果をもたらすと考えているそうです。中小企業は規模が小さいからこそ、退職した社員とつながることで、ビジネスにも人材にも広がりが出てくるはずだといいます。

ただし、アルムナイ・リレーションに限らず、新たな取り組みを行うためのベースは、会社と個人の信頼関係が前提だそうです。

そのためには、退職後ではなく、在籍中から「会社へのエンゲージメントを高める必要があること」を企業は認識するべきだといいます。

「日本のアルムナイ・リレーション活用は始まったばかり。働き方が多様化するなか、企業とアルムナイが、お互いをどう捉えるかによって、さまざまなアイデア、施策、双方のメリットが生まれると考えています。また、業種・業態により、多様なニーズが潜在している可能性もあります」

取材協力

大場 智代美(おおば ちよみ)

ハッカズーク
アルムナイ・リレーションシップ・パートーナー
新卒入社した企業で組織運営や介護事業を経験後、人と組織への興味から人材業界へキャリアチェンジ。入社のきっかけは、前職の同僚であった代表・鈴木氏の「オフィスへいつ遊びに来るの?」。これまでのキャリアを振りかえると、必ずアルムナイとのつながりがあった。