【対談】『ポスト終身雇用』時代の個人・会社間のリレーション[前編]

アルムナビ対談は、株式会社ハッカズーク代表取締役・鈴木仁志がゲストとともに、「新しい働き方」に関する意見を交わす企画です。

第一回となる今回は、「『ポスト終身雇用』時代の個人・会社間のリレーション」をテーマに、株式会社HARES CEO 西村創一朗さんをゲストに迎えてお送りします。

前編は自分らしい/新しい働き方の騎手として、西村さん自身の取り組みを掘り下げるとともに、リクルート・アルムナイとしての経験にもとづく「ハイブリッド人材」の有用性について意見を交わしました。

PROFILE

株式会社HARES CEO 複業研究家
ランサーズ株式会社 タレント社員/BOOK LAB TOKYO CEO
西村 創一朗 氏(写真右)

1988年生まれ。当時19歳の頃に長男が誕生し、学生パパとなる。その後、2009年よりNPO法人ファザーリングジャパンに参画し、現在は最年少理事を務める。  大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社。MVP受賞歴多数。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、第三子となる長女の誕生を機に「通勤をなくす」ことを決め、2017年1月に独立。独立後は「週休3日」で家族と過ごす時間を倍増させながら、複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業・政府向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。2017年9月より「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)の委員を務める。

 代替的な働き方/雇用のかたちを打ち出さなければ、個人も会社もしんどい

鈴木:今日は「『ポスト終身雇用』時代の個人・会社間のリレーション」というテーマでお話できればと思います。よろしくお願いします。まずシンプルに、このテーマについて西村さんは、どうお考えですか?

西村:僕たち世代は「ポスト終身雇用」時代に生きているにも関わらず、いまだ終身雇用の幻想にとらわれてしまっている部分があるんですよね。

ですから、今まで主流ではなかった、もしくは今までとは違うオルタナティブな働き方や雇用のかたちを考えていかないと、個人も会社もしんどい、そんな状況になりつつあると思っています。

鈴木:日本は、アメリカをはじめとする個人主義の傾向が強い社会とは違う要素が多々あるにせよ、日本でも組織や集団主義から個人主義へと変化しつつあります。

このような流れにおいて、「一億総活躍社会」や「働き方改革」を掲げる政府の動きや、多様な働き方に対応しようとする企業の動きはとても重要なのですが、順番で言えば、まず「個人」が動き始めますよね。「人生100年時代において、自分の人生をどうやって自分らしく豊かに生きていけるか?」を考えますから。

つづいて、その変化に企業を中心とした「組織」が追いついていくわけです。

一方で、追いつけずに取り残されていく「組織」も出てきます。そういった旧態依然とした「組織」と柔軟な「組織」が混在する社会において「個人」が翻弄されている、今はそんな過渡期と言えるかもしれません。

そして最後に「法規制」等が整備されていく、という順番になることが多いですよね。

こうした視点で見ても、西村さんの活動はとても興味深いと思っています。「個人」として固定概念にとらわれない働き方を実践しつつ、ランサーズ株式会社で「組織」を変える試みに取り組み、さらには経済産業省の「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」のメンバーとして、「法規制」という言い方は相応しくないかもしれないですが、政府の動きにまでアプローチを広げつつあるじゃないですか。

このテーマを論じるにはうってつけだと思い、来ていただいた次第です。まずは、かんたんに西村さんの取り組みの数々をご紹介いただけますか。

西村:はい。まず、僕が代表を務める HARES は、2015年6月、リクルートキャリアで会社員をしながら、複業というかたちで創業しました。ここでは、「二兎を追って二兎を得られる世の中を創る」というビジョンを掲げ、自分自身「一社にとらわれない働き方」を実践しています。

もともと19歳で長男が産まれ、就活の時点から「子どもがいる」ことを前提にキャリアを考える必要があったというのが、そのきっかけです。

仕事のために私生活を犠牲にするわけにはいきませんが、一方で、家庭優先で仕事に身が入らず窓際族になってしまうのは厭です。一般的には、「二兎を追う者は一兎をも得ず」的な話なのかもしれませんが、キャリアも家庭も両立できる働き方のほうが良いに決まっているじゃないですか。

それが「二兎」って位置づけられてしまう理由を考えてみると、「一つの会社に終身雇用され、社会人はその本業に集中すべき」という固定概念こそが、今の日本を不幸にしている元凶なんじゃないかなって思ったんです。

鈴木:それは、先日インタビューした八木洋介さんも「滅私奉公」と表現していましたね。

西村:そうですね。高度経済成長期の日本式経営は、もはや通用しなくなっているんでしょう。米ギャラップ社の従業員エンゲージメント調査(2017年)によれば、日本は「熱意あふれる社員」の割合がたった6%で、世界ランキングでは139カ国中132位ととても低い。残りも「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」が24%、「やる気のない社員」が70%を占めているそうです。

人口も減少していく中で、働き手の生産性まで下がってしまったら、さすがに日本は終わりですよね。でもこのまま指をくわえて見ているわけにはいきません。

節目となる2030年が、ちょうど私の長男が23歳で社会に出る頃なんですよ。それまでにこの状態を脱することが、父親としても、社会人としても責務だと思っているんです。

何より、周囲に不満をまき散らしている無気力な人や、やる気のない人ばかりの社会に、子どもを送り出すわけにはいかないじゃないですか。だから、2030年までの残り13年かけて、日本人の働き方を変え、世界トップ10に入るくらいまでエンゲージメントを高めていきたいんです。

鈴木:これが西村さんにとって、「個人」として「新しい働き方」であったり、「自分らしい働き方」を実践するさきがけとなっている原点なんですね。

次に、今日このインタビューの場所もお借りしている、ランサーズ株式会社での取り組みについて教えてください。

西村:2017年6月から、ランサーズ株式会社で、週二日働く正社員/タレント社員として、『オープン・タレント・プラットフォーム構想』の実現に取り組んでいます。

「週二日働く正社員」という働き方を選んだのは、自分の会社である HARES があるからフルタイムでは働けない前提で、どんな関わり方が良いのかをじっくり考えた結果なんです。

まず思い浮かんだのは「業務委託」でしたが、それはランサーズの中から大きなイノベーションを起こそうとする『オープン・タレント・プラットフォーム構想』の実現には向いていないと考えました。アクセスできる情報に限界がある場合もありますし、どうしても既存の社員から「外様」として思われてしまうんですね。

それよりも、同じ仲間として、同じ情報を見ながら、並列の関係で働き方のイノベーションをしていきたいと思ったんです。そうなると社員という立場が良いでしょう。

そもそも正社員=週5日って誰が決めたんでしょう?もちろん社会保険適用をはじめとした制度的な課題はあるものの、そういった課題をクリアした上で、週1日だけ働く正社員がいてもいいと思うんです。

実際、ベンチャー界隈でも、一つの企業では週3日だけ正社員として働いて、残りはフリーランスとして、みたいな働き方が増えてきていますよね。

もしかしたら、この「正社員=1社のみで週5日勤務」という固定概念から壊すのが、ポスト終身雇用時代における柔軟な働き方の象徴の一つと言えるのかもしれません。

アルムナイは「社内の文化」と「社外の知見」を併せ持つ「ハイブリッド人材」

鈴木:この「1社のみで週5日勤務があたりまえ」という固定概念をどうやって壊すか、ということですね。思えば、昔は土曜日半ドンの週6勤務があたりまえだったわけで、社会全体のムーブメントになれば早いと思うんです。

ただし、これは一部の民間企業だけでは難しい部分もあり、官民連携の動きが重要になるでしょうね。

そうしないと、先進的かつ、こういう取り組みを競争力に変えて業績を伸ばせる一部の企業でこそ導入されているものの、そうでない企業はいつまでたっても実施できずにネガティブなサイクルにはまっていく、という状況が想像できます。

個社レベルではなく市場全体で見れば、従業員の「副業/複業」を認めていく、つまり「リソースを0か100ではなく、100から30まで柔軟に減らして働ける」企業が増えてくれば、逆側では外部からタレントやナレッジを迎え入れる、つまり「100ではなく、70とか20だけとかリソースを足す」ということができる企業が出てくるということになります。つまり、市場全体でのタレント活用がより最適化されていきます。

雇用形態という意味ではありませんが、タレントやナレッジ調達という意味では、アメリカでアンドリーセン・ホロウィッツが10年くらい前からやっていることが近いかもしれません。

ベンチャーキャピタルでは、投資先企業をサポートする部門を抱えていることが多いですが、アンドリーセン・ホロウィッツはそれにとどまらず、エグゼクティブ・タレントやテクニカル・タレントの採用スペシャリストを数十人抱えていて、アンドリーセン・ホロウィッツとしての候補者プールも持っていたりもするんです。

この採用スペシャリストたちのメンツが凄いんです。出身企業は、Google、Korn Ferry、box、Salesforce、HP、Cisco、VM Ware、Morgan Stanley、EA、Ebay、Uberなど、アンドリーセン・ホロウィッツの投資先も含む名だたる企業で、採用責任者やリクルーターだったりしたスター人材たちです。アンドリーセン・ホロウィッツの投資先企業は、自社だけでは抱えられないこういったタレントをフルタイムではないリソースとして活用できるわけです。

西村トップタレントの活用で会社組織の「際(きわ)」が拡張されていくことで、既存組織の働き方も変わっていくというアプローチですね。ランサーズでの「オープン・タレント」の発想に近いと思います。

鈴木:そう、企業にとってのリソース活用が、役「職」から役「割」に変わっていくきっかけになりますよね。こうしたタレントのうち、もっとも企業が受け入れやすく、かつ、確実に活躍するのが、「アルムナイ」という存在だと思うんです。

西村さんは株式会社リクルートキャリアのアルムナイでもありますが、今、どんなリレーションを築いて、リクルートキャリアとお付き合いされているんですか?

西村:実は、現在の仕事の3割くらいは、リクルート案件なんです。といっても、もちろん独立の餞別やお情けというわけじゃないですよ(笑)

リクルートが僕を活用してくれるのは、シンプルに言えば、アルムナイの外部タレントとしての特殊性、言わば「ハイブリッド人材」だからなんです。

100%社内の人材は、井の中の蛙的になってしまいがちで発想が限られてしまいます。一方で、100%社外の人は、社内の力学がわからず、そのタレントやナレッジを発揮しづらい傾向にあります。

その点、「ハイブリッド人材」はまさに両方のいいとこ取りで、社内のお作法や人間関係、政治までを理解したうえで動ける、というわけです。

これからアルムナイ活用が進んでいくと思いますが、アルムナイによって外部リソース、特にこうした「ハイブリッド人材」の有用性に気付く、ということになると思いますよ。

鈴木:「ハイブリッド人材」って言葉良いですね。今後当社でも使わせてください(笑)

もしも、リクルートで働いた経験のない私が、月に10時間だけ業務委託でリクルートに入って何か提案しても、共鳴してもらうのに時間を要すると思うけれども、アルムナイで「ハイブリッド人材」の西村さんなら、期待値がセットできるし最短で成果を出せる、というのは容易に想像できます。

西村:僕が企業のコンサルティングの一環で、「副業解禁」のアドバイスをしていても、「社員に副業を認めるってことは、人材の流出につながる」と不安視されるんですが、むしろ逆ですよね。

鈴木:そうですよね。副業/復業をしたい人を縛ろうとして辞められてしまったら0ですもんね。たとえ複業で週3日になっても、60%は残るのに。

また、アルムナイを活用すればするほど、この0がプラスになっていきます。

西村:そうですね。ちゃんと卒業とした社員たちを「アルムナイ」として活用することで、アルムナイ側は「ハイブリッド人材」として最大限のパフォーマンスを発揮できるとともに、企業側としても、リソースを変動費化させたプールを持つことができるわけです。

実際、鈴木さん自身も、卒業されたレジェンダ・グループのフェローというかたちでリレーション築いていますもんね。これがどんどん日本のあたりまえになっていくべきですよね。

鈴木:本当にその通りですね。一つの「既知」ともう一つの「既知」の化学反応がなければ、イノベーティブは発想は生まれないので、外部からの視点はとても重要になります。

一方で、イノベーティブな発想を実行してイノベーションを起こすには、内部を動かす力も必要になります。そういう意味で、「ハイブリッド人材」であるアルムナイは最高のリソースだと思います。

アルムナイも副業/複業も、本来失わなくて済むリソース

鈴木:樋口泰行さんが古巣のパナソニックに戻ったのは本当に象徴的でした。このニュースの反応を見ても、企業とアルムナイが強いリレーションを築いて、必要に応じて「出戻り」も大いにあり、というのは今の日本のあたりまえではないんですよね。

日本マイクロソフトをはじめとして、外資系でイノベーションを起こしてきた樋口さんが、今度は DNA もわかっている古巣でイノベーションを起こす。素晴らしい人事だと思います。

西村本来、個人と会社のリレーションって、0か1のデジタルなものではなく、アナログにグラデーショナルなものですからね。その発想さえあれば、失わなくて済むリソースという点では、アルムナイも副業/複業も同じだと思うんです。

そこで違う視点で、副業/複業を見てみると、「副業/複業を考えている/興味あるけどやらない」っていう層は一定数いて、その原因は、ランサーズで出しているレポート見ても、心理的物理的に不安という要素が多いんですね。

鈴木:下手に脱サラして起業して失敗すると、マズローでいうところの生存の欲求部分が一気に落ちますもんね。

西村:それは僕も同じだったので、個人視点としては、「どういう風にリスクヘッジするか?」をずっと考えていました。もし、僕の古巣のリクルートキャリアが副業ダメだったら、きっと独立できなかったと思うんです。そこに関しても、リクルートキャリアにはものすごくい感謝しています。

同じ境遇の方は多いと思いますが、僕の場合は3人の子どもがいて、35年の住宅ローンがありました。何もない若者なら大丈夫かもしれないけれど、家族がいると、独立して収入ゼロからのスタートでは安心して踏み出せません。ですから、今の仕事や生活には満足していないけど、文句を言いながら毎日を過ごしてしまう。

そういったものの積み上げが、先ほども言ったギャラップ社の調査結果につながっているのでしょう。でも、月の複業における収入が本業と同じくらいになったら安心ですよね。僕の場合は、それを妻にも話していて、だから自信を持って独立できました。でも、それができない会社の方が多いのが今の日本ですよね。

やっぱり、衣食足りて礼節を知るので、先立つものがなければ夢もビジョンも藻屑。なので、よっぽどネジが外れていないと、専業起業は難しいのかもしれないと思います。

海外の起業は、複業的起業が多いですよね。サラリーマンとして収入を得ながら、本当にやりたいことはガレージで、っていう。良いサービスやプロダクトができたり、最低限の収入の見通しがたってからやめてフルコミットする、そういう起業のしかたができるようにならないと、ずっと企業率は4.6%のまま低く推移して、10%に達しないと思います。

複業的起業という選択肢があれば、少なくとも起業にチャレンジするハードルが下がるんです。

>>後編に続く

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編集後記

今回新たに『アルムナビ』を運営する株式会社ハッカズーク代表の鈴木仁志が、オピニオンリーダーと対談する企画をスタートさせました。こうした対談が、ジャムセッションやフリースタイルバトルのように、「想い」と「想い」が化学反応を起こし、「既知」×「既知」によって、新しいコンセプトにつながっていくことを目論んでいます。

さて、日本には「ウチ」「ソト」「ヨソ」という概念があります。オープンイノベーションは「ウチ」「ソト」の化学反応を期待しているものですが、「ヨソ」とそもそも範囲外にしてしまっていてはうまく機能しません。

このような明確な区分がある一方で、日本の住宅には、土間・縁側のような「ウチ」と「ソト」の境目が曖昧な領域があります。これまで「ヨソ」と認識されがちであったアルムナイですが、今回西村さんがおっしゃっていたように「ハイブリッド人材」であり、こうした「土間・縁側」的な存在として、日本企業の人事に浸透していくことを願っています。(アルムナビ編集長・勝又 啓太)