“旅行業界アルムナイ”が語る、古巣との協業アイデア「もっと退職者を面白がってほしい」

これまでアルムナビでは企業のアルムナイについて取り上げてきました。今回は趣向を変えて、「業界のアルムナイ」をご紹介。登場するのは旅行会社での勤務経験がある3名の方々です。かつて属した旅行業界に対して、卒業生は何を思うのでしょうか?

PROFILE

株式会社UZUZ
中村 慎吾さん(写真左)

1986年生まれ。高校卒業後、米国アラバマ州立大学ハンツビル校に入学。インドのマサラツアーズのあと、添乗員などを経て、2014年UZUZに入社。営業およびキャリアカウンセラーとして、求職者を内定に導いている。キャリアコンサルタントの国家資格も取得。
https://uzuz.jp/member/shingo-nakamura/

株式会社GREFICA/一般社団法人green4
鈴木 圭介さん(写真中央)

近畿日本ツーリスト株式会社入社、国内旅行の企画、手配を担当。その後、芸人として6年間活動するも挫折。庭園デザイナーに弟子入りし、2016年に独立。株式会社GREFICAを設立し、作庭やグリーンを使った空間演出を行う。2018年に一般社団法人green4 設立。大学の非常勤講師や高校の特別講師を担当。社会との関わり方、働き方などをテーマに講演を行う。

フリーランス
岡村 紘子さん(写真右)

フリーランス企画・PR。クラブツーリズム株式会社で海外ツアー企画を担当し、25カ国の添乗を経験。結婚を機に退職し旅キャピタル(現株式会社エアトリ)でインバウンド事業に従事。出産後は子育て優先の働き方にシフト。大学生向けのワークショップや、子育て世代向けのイベントなどを多数企画。

トラブル対応力、期待値の調整、元大手旅行会社の肩書き。今でも経験は生きている

——今日は旅行業界アルムナイの3名にお集まりいただきました!まずはそれぞれ旅行業界での経験と、旅行業界から離れたきっかけについて教えてください。

中村:インドのマサラツアーズという会社に勤めていて、南インドのバンガロールで1年半添乗員をやっていました。何でも屋だったので、日本人駐在員の方たちの生活のお世話なんかもしましたね。子守りしたり醤油買いに行ったり(笑)

添乗員を辞めたのは、当社の代表の岡本と会長の今村から「一緒に仕事しよう」と誘われたことがきっかけです。2人とも大学時代の友人なんですよ。

鈴木:僕は近畿日本ツーリストで約3年間、国内ツアーの担当をしていました。ただ事務作業が本当に苦手で、ミスが多かったんです。

ある日、上司に「この仕事はあまり向いていないと思う」と話したら「そうだな、辞めて違うことやった方がいい」と言われて(笑)。その時は「引き止めてよ!」とも思いましたが、結果的に辞めてよかったし、その上司とは今も仲良くしています。

岡村:私はクラブツーリズムで海外旅行の企画や添乗を約6年間やっていました。辞めたきっかけは結婚です。ちょうどプレイヤーからマネジメントに移りつつある時期だったんですよね。現場から離れると、やっぱり添乗が好きだったことに気づいて。売上目標の数字もキツかったですし、結婚に逃げたところもありました。

その後、結局は旅行の仕事が好きだしそれしかできないとも思っていたので、インバウンドの旅行会社に転職しましたが、第一子の出産を機に再び退職しています。旅行業は毎日がお祭り騒ぎで、トラブルが付きもの。子育てとの両立は無理だと思ってしまい、そこからは別の業界に移り、現在はフリーランスでPRをやっています。

——今のお仕事をしている中で、旅行業界の経験が生きていると思うことはありますか?

中村:人前で話すことに慣れました。あとはとにかくいろんな所に行くので、相手の出身地から話を広げられてアイスブレイクには困りません。雑談力は身に付きましたね。

岡村:人の名前と顔を覚えるのも得意になりますよね。顔と名前が一致しないと呼び出しができないので、死活問題なんですよ。

あとはトラブルに強くなりました。海外旅行の添乗中に乗継の空港で迷子になったお客様を探していたところ、私と他のお客様が飛行機に乗り遅れて取り残された、なんてこともあって。あの時のことを思い出せば、もう怖いものはないですね(笑)

中村:インドもクレームの嵐でしたね。お客さまにとってはスケジュール通りに進むのが普通だけれど、全然その通りにならないんですよ。「電車は3時間遅れるのが普通で、こういうのもインドの楽しみ方ですよ」みたいに事前に伝えるんですけど、それでもやっぱり不満が出てしまう。そういう想定外への慣れや、期待値の調整は今の営業の仕事でも役立っているかもしれないですね。

鈴木:大手の旅行会社は影響力が大きいので、ブランド名を掲げながら地域にアプローチしていける。それはやはり大手の旅行会社でなければできないことだし、今も「元近畿日本ツーリスト」と名乗れることで助かることがあります。

あと僕はガーデンデザイナーとして造園屋の役割にプラス、グリーンを使ったコンサルティングもしているのですが、「グリーンで集客ができないか」という発想ができるのは旅行業界の経験があるからだと思います。

——例えばどのようなことでしょう?

鈴木: 前に地元の埼玉・大宮の武蔵国一之宮氷川神社から「参道を変えたい」というお話をいただいて、もみじの名所を作りましょうという提案をしたことがあります。そこからもみじに関するお土産ができ、御朱印帳にもみじが印刷され……という流れができると、旅行業界で経験してきたものがなんとなく結びついてくるんですよね。参道を整えるだけでなく、観光の側面から何かできるかもしれない。当時の上司が地域を盛り上げるためのイベントを企画していたのを見ていたので、そこから「グリーンで集客ができないか」という発想につながったんだと思います。

旅行業界とコラボするなら、何をしたい?

——皆さん、現在も旅行業界との関わりはあるのでしょうか?

岡村:今はないんですけど、私は書籍PRに携わっていて、現在担当している書籍のテーマが「相続」なんです。アクティブなシニアが多いクラブツーリズムの顧客がターゲットとして最適なので、一緒に何かできないか提案しに行きたいと思っています。

中村:僕はユーザーとしての関わりしかないですね。当社は第二新卒・既卒の20代向けの就職サポートのサービスを提供しているので旅行会社に営業に行くことはありますが、それもたまにです。

ただアイデアだけはあって、旅行会社と組んでキャリアツアーができたらいいなと思っています。求職者と人事担当者を一緒にバンに乗せて企業を回って、会社見学をしながら選考が受けられるようなイメージです。

第二新卒や既卒の方に地方の企業を提案することもあるんですけど、知らない土地に抵抗がある人は多いんですよ。旅行業界の方に協力してもらえたら、その土地の良さも伝えられる。普通の面接よりも良いマッチングができそうですし、こういうコラボができたらいいなと思います。

鈴木:僕は教育をテーマにした社団法人をやっていて、学生と一緒に地方創生に携わりたいと思っています。その際、地方の人達や旅行業界とつながって、一緒にやれたらいいなと考えていて。具体的には、その土地のお土産になるような要素を取り入れた、環境に良いおしゃれな手作り石鹸を作って、観光PRに使ってもらおうとしています。

鈴木:実はすでに当時の上司に提案もしたんですよ。会社としてコラボするにはお金もかかるし、始めたら結果も出さなければいけないですから一緒にやるのは叶わなかったですけど、代わりに地域の有力者の方を紹介してもらいました。旅行業界は地元の有力者との関係が強いので、その地元の方々と一緒に面白い町おこしができるんじゃないかと思っています。

——岡村さんはフリーランスですが、例えばフリーの添乗員として協業するような可能性はいかがですか?

岡村:旅行業界のお客さまの中にはフリーランスを嫌がる方も少なくありません。トラブルも多いので「保険をかけておく=大企業の名前」という考え方が一般的です。企業から請け負って責任を持ってやっていることが伝わるような見せ方を考えれば、フリーランスの活用も広がる気がしますね。

中村:僕はマサラツアーズと今もつながっていて、「この日添乗行ける?」みたいな連絡をもらうことがあります。やろうと思えば副業で添乗員ができる状態ではありますね。

岡村:旅行会社の正社員は業務量にいっぱいいっぱいになっていることも多いので、コア実務に集中できるようにフリーランスを活用してもらえれば働き方の面も改善できそうですよね。

古巣とは縁が切れたものだと思っていた

——旅行業界との協業のアイデアはいろいろお持ちなんですね。もしアイデアを実現しようとした時に、旅行業界がどういう状態であれば協業できるイメージか湧きますか?

岡村:退職者を面白がってほしいですね。業界を出た人は裏切り者みたいに思われているんじゃないかって、近寄りにくい感じがしていたんです。

特に私は辞めるときに心をシャットアウトしちゃって、絶対に引き止められないように「家庭の事情」って嘘をついたんです。そういう後ろめたさもありましたし、ずっと縁は切れたものだと思っていました。

——縁が切れたと思っていたのに、今またつながりを持とうとしているのはなぜなのでしょう?

岡村:旅行業界のことは思い出すと涙が出ちゃうぐらい好きだけど、同時に数字へのコンプレックスなど、つらい思い出も蘇ってしまう。だから封印していたんです。でも、そういうつらさを払拭したくて、去年もう一度旅行業と向き合おうと思いました。

岡村:それで同期や先輩に連絡とってみたら、やっぱりすごく面白かった。旅行業界での経験が自分のベースになってることも痛感したので、今は恩返しをしたい気持ちが強いです。

——古巣の旅行会社がアルムナイのネットワークをつくることになったら、参加したいと思いますか?

岡村:参加してみたいですね。アルムナイ同士ではお会いする機会はすでにあるので、どちらかというと現役社員の方とお会いしたいです。今日出てきたアイデアについて直接ヒアリングしたいですね。

鈴木:僕も現役社員の方にお会いしてみたいです。企画や手配をやっている方がどういう思いで働いているのか、聞いてみたい。あとは決裁権を持っている方とお会いしたいです(笑)

中村:僕はマサラツアーズの時の人脈がまだつながっていて、ありがたいなと思っています。当時の同僚がたまたま近くで働いているので、「うちの会社に人を紹介してよ」といった話をもらうこともありますね。

ただ、私が普段お会いしている第二新卒や既卒の若手の方たちは、私たちが勤めていた当時の旅行業界みたいな働き方を好まない人も多いです。仮に古巣の求人を預かることになったとしても、なかなか支援しにくい現状があって。それが寂しいんです。

旅行会社で働いている人も、働いていた方も、パワーと企画力がある人が多いと思っています。添乗していれば発信するネタには困りませんから、YouTuberのような活動をするなど、個人ブランドの確立もしやすいですよね。例えばそういうキャリアを会社が認められれば、若い人から見た旅行業界のイメージも変わるんじゃないでしょうか。

岡村:旅行業界は面白くて刺激的ですよね。現場感覚はものすごく身に付きますし、現地でお客さまと触れて生の声が聞ける。身を持ってマーケットを知ることができるので、20代にとってすごく良い経験になると思います。

私自身、今のキャリアのベースは旅行業界で作られたという思いがすごくあります。旅行業界での経験がどれだけプラスになっているか、お伝えしたい気持ちは強いですね。

取材/文 :天野 夏海
撮影:築山 芙弓