働き方の今後を考える上で「複業とアルムナイは骨太なトレンド」【ユニリーバ島田由香×ハッカズーク鈴木仁志×HARES西村創一朗】

企業の副業解禁の流れに伴い、複業人材を積極的に受け入れる企業が増えてきました。

その際に注目したいのが、アルムナイ(退職者、卒業生)の存在。自社の文化や仕組み、社内用語を理解しているアルムナイは、仕事をお願いする上で最適な外部の人材です。

9月30日に開催されたウェブセミナー『「複業採用✕アルムナイ・ネットワーク」から読み解くNEXT HR最前線』では、複業やアルムナイに関する現状とこれからについてディスカッションが行われました。

登壇者は、ユニリーバ・ジャパン取締役 人事総務本部長・島田由香さん、当メディア『アルムナビ』を運営するハッカズークCEO・鈴木仁志、モデレーターのHARES代表・複業研究家の西村創一朗さんの3人。

本レポートでは、アルムナイに関するパートをご紹介します。

※本記事では、「副業=本業の他にサブの仕事を持つこと」「複業=複数の仕事を持ち、かつメイン・サブの序列がないこと」の意味でそれぞれの言葉を使っています。

ユニリーバ・ジャパン取締役 人事総務本部長・島田由香さん(中央)
ハッカズークCEO・鈴木仁志(左)
モデレーターのHARES代表・複業研究家の西村創一朗さん(右)

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全ての会社がアルムナイとつながりを持つべきだとは思わない

西村:HR業界はめまぐるしく新しいキーワードが出てきては消えていく。その中で骨太のトレンドとしてあるのが「複業」と「アルムナイ」だと思っています。

島田:アルムナイと交流しようとしない会社は、鈴木さんから見てどうなんですか? 遅れている?

鈴木:正直、 仕方がないかなと思っています。特に滅私奉公をしてきた感覚がある人は、無意識に下の世代にも同じ行動を求めてしまう。だから「退職者なんて認めない」となってしまうのもわかるんです。

ただ、われわれはアルムナイとの関係構築に取り組むことは、どう考えてもプラスだと思っています。ですから、無理だと感じてしまう人たちの気持ちも理解した上で、どうやったらできるのかを一緒に考えるだけ。アルムナイと交流しようとしないからといって「あの会社はダメだ」と思うことはないです。

島田:どの会社も何かしら世の中に貢献しようと思って事業をやっているわけで、うまく回っているのであれば、それはそれでいいんでしょうね。正義と言ったら大げさかもしれないけれど。

鈴木:そうですね。僕も全ての会社がアルムナイとつながりを持つべきだとは思っていないんです。退職に対する自社なりの考え方を持ってもらえたらいいなとは思いますけど。

最近気持ち悪さを感じているのは、個人の多様性は求めるのに、企業の多様性は認められていない雰囲気があること。

例えば副業が良いとなると、企業側が目指す姿に関係なく、やらないとダメな会社みたいに見られてしまう。そうなるとどこも似たような会社になっていき、最終的には個人が自分たちの首を絞めることになるんじゃないかと思っています。

結局、会社の信念は何かって話じゃないですか。会社がなんとなくきれいごとを言って、実は胸の内は違うとなるよりは、信念のもと、「絶対に転職はしないでください。辞めた人のことは嫌いになります」くらいに社長が言うのもいいと思うんです。そこに共感する人を求めていけばいいわけですし。

島田:私も賛成です。ある人にとってハッピーなことが、別の人にとってはそうでないこともある。だからみんなが同じじゃなくていいし、それぞれがハッピーだったら何だっていいですよね。

鈴木:ただし、副業やビジネスのパートナーシップなどを考える時、会社にとっての最適解は「辞めた人は除外する」ではなく、「その対象にアルムナイを入れる」じゃないですか。

また、会社によっては口コミサイトの口コミの半数近くを退職者が書いていると言われています。それなら会社の現状を退職者にも随時伝えていくことで、退職後の変化をも理解した上でポジティブな口コミを書いてくれる人を増やせるかもしれません。

島田:今年の7月に始めた『WAAP(※)』に、ユニリーバ・アルムナイが何人か応募をしてくれました。それは私たちにとって、ある意味でベストなんですよ。社内のプロセスや用語への理解があるわけだし、何よりも「ユニリーバをまだ良いと思ってくれているんだ」というのがうれしい。ウキウキしちゃいましたね。

※いつでも、どこでも、誰でもユニリーバ・ジャパンでの副業(パラレルワーク)・インターンシップにチャレンジできるプラットフォーム。「Work from Anywhere & Anytime for Parallel careers」の略

鈴木:前にある経営者の方とお話をしていて面白いなと思ったのは、新しいサービスを出したり制度を変えたりする時、「辞める人の顔を思い浮かべる」と言っていたんです。

その結果、誇りに思ってくれるかどうかを自分の中のバロメーターにしているといっていて。その会社はやっぱりアルムナイとの関係性がすごく良いんですよ。

島田:いい話!

重要なのは雇用形態ではなく、「会社」という場

島田:私が前にいたGEもアルムナイの横のつながりが強くて、特にGEのHRのアルムナイは年に1回必ず会う機会をつくっています。それ以外にも、普段から「〇〇さんが仕事を探してるんだけどいいポジションない?」「こういうことをしようと思うんだけど、みんなのところではどう?」といったやりとりがあって、助けてもらうことも多いです。

私はこういうアルムナイの存在によって、GEにいたことの価値がさらに増している感覚があるんですよ。

連載「ALUbum」に登場してくれたGEのHRのアルムナイ・岡田美紀子さんも「私のキャリアはアルムナイとのつながりなくして語ることができない」と語っていた

鈴木:優秀な人材を輩出していて、しかもそれに対してポジティブなのは大きいと思います。島田さんもGEにいたことをいろいろなところで話しているし、GEアルムナイのその後のキャリアが可視化されている。

そうなると「HRといえばGE」みたいなイメージが強くなりますよね。その結果、HRを極めたい人はGEにいこうと考えるんですよ。「全国大会に行くためにはあの高校に行こう」っていう、スポーツの強豪校と似ているなと思います。

島田:確かに。

鈴木:ところが辞め方が悪いと、表には絶対言わないですよね。たとえポジティブな話をする場合であっても「某大手企業」みたいな言い方になってしまう。社名が可視化されないから、良い流れにはなりません。

島田:「最後にどういう声かけをしたか」「退職に至るまでのプロセスでどういう関わり方をしたのか」で、辞め方をポジティブにするかどうかは決まるのかな。

私がGEを退職する時、いろんなリーダーにごあいさつをして、それぞれが素敵なことを言ってくださったんですけど、「いつだって戻ってきていいんだよ」という一言がすごくグッときて。

それが私にとってポジティブな辞め方につながったのだと思っていますし、私も社員がやめるとき、同じことを伝えるようにしていますね。

鈴木:退職時の対応のポイントは、過去と未来の両方を肯定することだと思っています。「いつだって戻ってきてね」という言葉には、「あなたの意思を尊重するから送り出す」という未来の肯定と、「でも、戻ってきてほしい」というこれまでの過去の肯定の双方が含まれていますよね。

島田:本当にそう。 逆に言えば、退職時は過去が全部否定されるかのように感じてしまう瞬間にだってなり得るわけですよね。

鈴木:オンボーディングに関するマネージャーの教育はあっても、オフボーディングの教育はないじゃないですか。「退職時に何をしちゃいけない」「これをしたらどうなるのか」といったことを多くの人は知らないんですよね。

これはすごく不思議なんですけど、新卒採用の説明会にきた学生に対して、「いつかお客さんになったり入社をしたいと思ったりするかもしれないから、学生をお客さんとして扱いましょう」という日本企業の考え方があるじゃないですか。どうして一緒に働いた人たちに対してはそれをやらないんだろうって思うんですよ。

現実には「これだけ期待していたのに」と感情的にネガティブなことを言ってしまうケースがまだまだあるし、メンバーの退職がマネジャーの評価に響く会社もあります。

島田:単純化すると、付き合ってて、いきなり別れを告げられて、裏切られた、みたいな感じですよね。でも、それはそのくらい好きだったっていうことでもある。

鈴木:そうなんですよ。

島田:雇用されている会社がその人にとってどういう場になるのか、退職時に決まるんだろうと思います。言葉を選ばずに言えば、今は正社員が偉いとか、ちゃんとしているといったイメージがあって、それが非正規雇用という言葉にもつながっているのかもしれない。

でも、本質は一人一人が自分の仕事に対して使命やパーパスを持ってどう向き合うかであり、その際に重要なのは雇用形態ではなく、会社という場です。

そういう考え方を広めるものが複業やアルムナイであり、働き方の今後を考える上で「複業とアルムナイが骨太なトレンド」というのは、改めてすごくしっくりきますね。

「辞めてもつながり続ける」の意思表示は「社員との向き合い方」の表明でもある

西村:「退職者=裏切り者」というバイアスを持っていた企業がアルムナイとの関係構築を始めて、成功体験を得た事例はあるんですか?

鈴木:結構多いですよ。「このままじゃだめだ」という思いを持っている人はどこの会社にも絶対いて、その人たちの存在がすごく大きい。

西村:『半沢直樹』のような人がいるわけですね。

鈴木:まさしくそうで、そういう人が小さな成功事例を重ねてくれる。会社から追い出されるように辞めた人であっても、個別にアプローチをして、小さくつながり、仲間を増やして成功体験ができていく。その結果、会社自体の動きにつながっていくことは多いです。

鈴木:逆に言うと、アルムナイ特化型クラウドシステム『Official-Alumni.com』を導入しているクライアントさんの中にも、全社員が賛成しているわけではないケースはあります。それでも「辞めたら縁が切れるわけじゃない」という意思表示を、会社としてすることが重要です。

なぜなら、それは対アルムナイに限らず、「社員とどう向き合うのか」という考え方の表明でもあるから。今は過渡期ですけど、少しずつわかってもらえるといいなと思います。

西村:アルムナイネットワークをつくってアルムナイとつながるメリットはわかるんですけど、一方でデメリットはあるのでしょうか? 

鈴木:多くの人事の方がおっしゃるのは「退職者が増えたらどうするんだ」ということ。ただ、あくまで社員をひっくるめて「どう付き合っていくのか」という話であり、そもそも「転職したくないと思われる会社をつくりましょう」というのがベースだと思うんですよ。

そのためには社員にとってプラスとなる仕事の機会を提供し、転職も含めたキャリアについてオープンに話せる状態が必要ですから、退職に関する話題がタブー視されている現状は変えていかなければいけない。

今後はモデルケースに当てはめるマネジメントではなく、相手の意思を引き出すようなマネジメントが求められるでしょう。意思に添えるオプションが社内にないのであれば送り出せばいいし、その際に引き続き副業で一部の業務を任せるのもありだと思います。

島田:それはありですね。

西村:『WAAP』にアルムナイから応募があってうれしかったとおっしゃっていましたが、ユニリーバは昔からアルムナイの方に仕事をお願いするとか、旧交を温めるとか、そういった取り組みをしていたんですか?

島田:イエス・ノーで言ったら、イエスです。出戻りの人もいるし、辞めた人とも仲良くしています。ただ、会社がアルムナイネットワークを用意しているわけではなく、個人的なつながりですね。

実は今回のWAAPをやってみた結果、「あの人が戻ってきてくれたらいいね」「あの人がこれをやってくれたらいいね」という話が会社としても出てきたんです。

そういう意味では、また一緒に働きたいと思うアルムナイの方が今何をしているのか、仕事が受けられる状態にあるのかなど、定期的に確認をすることが大切です。鈴木さんがやっている『Official-Alumni.com』はまさにそういうことですよね。改めて大切なことだと思いました。

辞める判断をするっていうことは、何かしら今の会社よりも別のところの方がいいと判断したということ。さまざまな理由があったとしても、それでも「この会社が好きだ」と思ってもらいながら、能力や強みをユニリーバというプラットフォームで発揮してもらえる、そんな場をいかにつくれるかが重要ですよね。

西村:転職は引越しや移住みたいなものですよね。地元が嫌なのではなく、違うものを求めて上京して、中には地元が恋しくなってUターンする人もいる。良い・悪いという話ではないから、「裏切り者」ではなく、ポジティブに捉えて過去と未来を肯定してあげられるといいですね。

>>ウェブセミナー『「複業採用✕アルムナイ・ネットワーク」から読み解くNEXT HR最前線』の動画はこちら

文/天野夏海